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小|中|大|5輪の黄薔薇の花言葉
君に出会えて本当に良かった
君に恋し、愛します
出会えたことの心からの喜び
可憐、献身、平和
【おそ松さん】平凡な自分と真逆な6人のまとめ【完結済み】のその後のお話です
【おそ松さん】赤薔薇を君に【おそ松】
【おそ松さん】青薔薇を君に【カラ松】
【おそ松さん】緑薔薇を君に【チョロ松】
【おそ松さん】紫薔薇を君に【一松】
【おそ松さん】桃薔薇を君に【トド松】
【おそ松さん】白薔薇をみんなに【逆ハー】
【おそ松さん】わたしに花束を【平凡な自分と真逆な6人】
君に出会えて本当に良かった
君に恋し、愛します
出会えたことの心からの喜び
可憐、献身、平和
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【おそ松さん】白薔薇をみんなに【逆ハー】
【おそ松さん】わたしに花束を【平凡な自分と真逆な6人】
十四松さん、そろそろかな。
十四松さんとの待ち合わせ。
公園のベンチに座り、スマホで時間を確認。
もう少しで約束の時間。
好きな人、を待つのっていいな。
スマホをカバンに入れると、頬が緩んだ。
何気なく園内の池に目をやると、小さな子供達が釣竿だったり、網なんかを持って、その周りを楽しそうに駆けている。
子供は風の子、って奴かな。
冬なのに元気だなあ。
微笑ましく思いながらそれを眺めていると。
その中の一人の男の子が、ふと顔をこちらに向けて、わたしに向かって元気よく手を振った。
「YOUお姉ちゃーん!」
その子を見つめて、わたしのアパートの隣室の男の子だと言う事に気がついた。
「あ!久しぶりだねえ!お友達と遊んでるのー?」
「うんっ!そうだよ!今さっきねえ、こんなにおっきいお魚が取れて…そうだ!お姉ちゃんにも見せてあげる」
その子がしゃがんで、池をじっと見つめる。
お魚がいないかの確認かな。
可愛くて笑ってしまう。
「あ、いたよ!ほら、ここに今っ…」
魚影が見えたのか、彼は急に立ち上がり。
他の子がその声に振り向いて。
「ほんと?見せて!」
運悪く、重なって。
身体がぶつかり、軸がブレて、バランスを大きく崩した。
「うん、ほんと……え?」
ドボーン、と大きな水音がそこら中に響いた。
彼が池に落ちた、という事を理解するのにそう時間はかからなかった。
「きゃあああ!大丈夫!?」
他の子達が池を覗き込む。
「ごほっ…げほお!!た、助けて…!」
苦しそうにもがきながら、手を伸ばす。
その動作を見て、わたしは叫びながら、勢い良くそこに向かって走り出した。
「大丈夫っ!?待ってて!!お姉ちゃんが、今行くから!!」
コートを荒々しく脱ぎ去り、ハイヒールを履き捨てる。
ぶん、とカバンを彼に向かって投げる。
「それに掴まってーー!!」
大声で呼びかけると、彼が溺れながらそれを必死に掴む。
しかし、如何せん浮力が足りない。
ゴボゴボと淀んだ音を口元で立てて、彼は浮いたり沈んだりを繰り返す内に。体力が消耗されたのか動きが減り、水の中に吸い込まれそうになっていく。
「どうしよう、お姉ちゃん!」
「…わたし、泳げないのお!」
「待ってて!!大丈夫っ…だから…!」
すーっと息を吸い込み、わたしは一思いに。真冬の池へと飛び込んだ。
まず最初に感じたことは。
痛い……!!
肌に感じた鋭い冷たさは容赦が無く、皮膚が縮こまり、頭にズキンとした痛さを送った。
全身が凍りつく様だった。
泳ぎ上手な彼に習った、布団の上での泳ぎ方。
見様見真似で、思い出しながら。カナヅチ、のわたしが少年の元まで涙目で進む。
冷水を顔中に浴びて、鼻に入った水に呼吸が圧迫され、吐き出そうにも苦しくて吐き出せない。
折角綺麗に纏めた髪も、池に浸かってしまい、グズグズで。わたしに絡みついて、体力を奪っていく。
傍から見たら、わたしと少年、どちらが溺れているか分からないだろう。
それでも、それでも…!
「大丈夫…だかっ…ら」
必死に水をかき分け、死にものぐるいで泳ぐ。
「わた…し…に、掴ま……って…」
何とか辿り着いた所で、意識が危うくなる。
「お姉ちゃん!!」
腕にしがみつかれて、安心しきった所で、力が四肢から抜け落ちた。
少年の細い小さな身体がやたらと重く、一人で精一杯の泳ぎが、出来るはずも無く。
……沈む…。
でも、この子だけは助けなきゃ…!!
「…わたし、はいいから……!」
最後の力を振り絞って、少年を、わたし達の方向に網などを伸ばしている子供達の方に投げた。
火事場の馬鹿力、という奴だろう。
これまでにない程の力が自分から出たのが分かった。
水の抵抗をものともせず彼が進み、その小さな手が、釣竿の先と網を掴んだ。
わたしはその反動から、更に岸から遠のいたけれど。
……良かった。
子供達が彼を引っ張り、岸に上げる。
それを見届けると、自分の身体の感覚が無くなっていることに気がついた。
これで本当に、最後の力を使い切ったらしい。
身体中が動かなくなり、足から池の深くへ、深くへ、と落ちる様に沈んでいく。
子供達の泣き声と、わたしを呼ぶ声を後に。
視界が暗転した。
「…YOU!YOU!!」
子供の様な、泣き声?
「……死なないで!」
いや、違う…。
最愛の人が、わたしを呼ぶ声だ。
「……死んでなんか…いませんよ」
ゴフッ、と肺にまで入ってしまった様な、水を地面に吐き出して、彼に笑った。
「…十四松、さん……」
十四松さんが目を大きく見開いたかと思うと、その両眼から大量の涙が零れた。
「…うっ、うっわああああああん!!」
冷えきってずぶ濡れのわたしの身体を、彼が泣きながら包み込む。
「ぼくっ、ぼくね!YOUが、死んじゃったかど、思ってえ!!」
…暖かいなあ、十四松さん。
「ふふっ…そうなんです、ね…。心配掛けて、ごめんなさい…」
ボロボロと零れる彼の涙を、わたしは濡れた指先で拭う。
そうすると、彼が益々わたしを強く抱き締める。
「謝んないでえ…」
「…十四松さんが、助けてくれたんですね」
十四松さんが大きく頷く。
本当に、十四松さんはわたしの王子様だな。
「十四松お兄ちゃん…YOUお姉ちゃん…ごめん、なさいっ…僕が……」
「ごめんなさい…」
わたし達を取り囲んでいた子供達が、ポロポロと涙を流して泣き始めた。
「んーん…大丈夫、だよ…YOUお姉ちゃんは、みんなが元気で、良かったあ…もう平気?」
少年に首を傾けると、彼が涙で濡れた顔でこくこくと頷く。
「そっかあ…ほん、とに……良かっ…た……」
「YOUっ、YOU…!!やだ、もう何処にも行かないで!」
安心感から目を閉じそうになると、彼がわたしにしがみついた。
「…みんな、もう帰って大丈夫だよ」
そんなわたし達をまじまじと見つめる子供達に思わず頭を掻いて、帰りを促す。
「…でも」
「これからは、ちゃんと気をつけること。それだけ守ってくれたら、怒ったりしないから」
「……うん」
「うん、やっぱりいい子だね…」
子供達が帰って行っても、十四松さんはわたしを抱き締めた腕を離すこと無く。
「怖かったあっ……!」
ずっとずっと、泣いていた。
「あの、十四松さん…」
そして、ようやく泣き止んだかと思うと。
「なんで土下座してるんですか!?」
十四松さんが跳ね上がってわたしから離れ、その場に深々と、頭を地面に擦り付ける様にして土下座を始めた。
わたしがそれを止めさせようとしても、彼はふるふると首を振って止めようとしない。
「本当に!罪悪感があるので…お願いだからっ辞めてください!」
頼み込むと、十四松さんは恐る恐る、と言った感じで顔を上げてわたしの様子を伺う。
「ぼく、あのっ……」
彼はわたしと目が合うと、真っ赤になっていく。
もじもじと言い淀む十四松さんの言葉を待っていると、いつもの彼では考えられない程に小さな声で、呟いた。
「じ、じっ…じんこーこきゅー…し、しちゃいやした」
…人工呼吸?
「…へ?」
人工呼吸、人工呼吸。
普段の生活ではあまり聞きなれないその単語を反芻し、その行為が行われている情景を、わたしと十四松さんで思い浮かべた。
いわゆる、口と口、で行う蘇生行為。
「う、うそおおおおお!!?」
ぼふん、と顔に熱が上り突飛な甲高い叫び声が出る。
「さーーーせん!!本当にごめん!!ごめんごめんごめえええんっ!!まじでごめんなさインサイドプロテクター!!!」
彼はごめんごめん、ごめんなさいごめんなさい、とわたしに謝り続けながら、更に勢いを付けて何度も頭を地面に打ちつけて、土下座をする。
「ぼく!変な気…とか、無くて!!いやでも、そりゃあYOUに、ちゅ、ちゅーとかしたかったけど!!」
蘇生行為、と軽く捉えていた事を彼に可愛らしく表現されて顔の熱が高まっていく。
曲がりなりにも、わたし達はキスしてしまったという事だろう。
「でも!でもでもでも!!本当に、そんな気は無くて!!ごめんなさい、って思ったけど!なかなか、YOUが目を覚まさなくて、不安になって……」
十四松さんの声が、段々小さくなっていく。彼は物凄く葛藤して、悩んだ挙句どうしようもなくて。
わたしに気を使ってくれていて、でも隠し通すことは出来なくて。
十四松さんは優しいから、困ってしまったんだろうな。
「女の子、は……口とか、特別、なんでしょ?」
小さく頷くと、彼はごめんなさい、と泣きそうな声でそう言った。
「……でも、仕方の無い事だと思いますよ」
「…え」
「だってわたしが溺れていて、仕方無く…でしょう?」
「……うん」
十四松さんが、ぎゅーっとズボンを掴むのが見えた。こんなに優しい人を困らせるなんて。
わたし、性格悪いなあ。
そう胸中で呟いて、彼に向き直った。
「…なんて」
その場でくすくすと微笑むわたしを、十四松さんがぽかんとして見つめる。
「片方が意識が無かったら…ノーカウント、ですよ」
「えっ?」
「……わたし、十四松さんの事が好きです」
好きな子は虐めたくなる、なんて馬鹿馬鹿しい言葉が鮮明に思い出された。
「ええええ!!?ほ、ほんと!?」
「はい、本当に。だから、わたしが起きてなくて残念だな…って」
思いを吐露すると、彼が自分の両頬を挟み込んだ。
「ひゃああ……うそ、みたい…」
しばらく彼はぽーっとしていたけど、我に返った様に飛び上がり、わたしの元に近づいた。
「あれ!?ねえっ!ざ、残念…ってことはぼくがYOUにちゅーしても…いいんすか」
「…はい」
「マジすか!!ぼ、ぼくすうっげえ嬉しい!!」
ひゃーっ!と彼が叫んで真上に飛び上がる。
バタバタとパーカーの袖を振り回して、唐突にその腕をわたしの背中に回した。
彼の腕は逞しくて、抱き方が優しくて、心が落ち着く。
そして目をぎゅっと閉じてわたしに顔を近づける十四松さんの唇を、人差し指で制した。
「えっと、YOU…?」
開いた目を丸くして不思議そうにする彼は何とも言えず可愛い。
「もう一回だけ、十四松さんからの告白が聞きたいな…」
ぼそっと囁くと彼の顔が火が付くんじゃないかと思うくらいに赤くなり、弾ける様にわたしの元から離れる。
「こ、これ!YOUにっす!!」
わたしを助けてくれたからだろう、水に濡れてしまった5輪の黄薔薇を彼がばっと差し出す。
「ぼく、YOUが大好きっす!!こうやって!ざばーんって!泳げないのに飛び込んだりする所とか!!」
彼の、大きな飛び込みの仕草に苦笑いしつつもその言葉を受け止める。
「にこって笑った時の顔とか!泣いてる所とか見ると、もうすっげえドキドキして!!」
わたしも、全く同じ気持ち。
彼の笑顔に心が暖かく跳ねるし、泣き顔には心が苦しい程に動揺してしまう。
貴方が、好きだからなんだ。
この思いに、間違いは無い。
淀みは無く、清潔な愛。
「マジで!!YOUの事が一番大好きっす!!YOU、ぼくと付き合って下さい!!」
純粋な貴方といられるなら、わたしも貴方に釣り合う程に綺麗になれるかも、なんて。
「…わたし、十四松さんの事が大好きです」
わたしは、彼から薔薇を受け取り、そう答えて微笑んだ。
「よいしょーーー!!」
「きゃああっ!?」
十四松さんがその瞬間わたしを担ぎ上げて、嬉しそうにグルグルと回り始めた。
「あはははははー!いっえーいっ!!YOU、ありが特大ホームラーーン!!」
十四松さんの笑い声に釣られて、彼の腕にぎゅっとしがみついていたわたしも笑みが零れた。
「ふふっ…危ないですよ、十四松さん」
二人でケタケタと笑いながら。
彼に身を任せて、今を楽しむ。
回る景色と、大好きな貴方の大好きな笑い声と、眩しい笑顔。
「……大好き!!」
十四松さんと見つめ合えば、彼がにっこりと。
満面の笑みと素敵な愛しい言葉をわたしにくれた。
「…大好きです!」
わたしも、彼程ではないだろうけど。
精一杯、心からの笑顔を捧げた。
そして、真っ直ぐで照れるくらいに率直な言葉を。自然に言うことが出来た。
二人でコツンとおでこを合わせて笑い、目を閉じた。
十四松さんとの待ち合わせ。
公園のベンチに座り、スマホで時間を確認。
もう少しで約束の時間。
好きな人、を待つのっていいな。
スマホをカバンに入れると、頬が緩んだ。
何気なく園内の池に目をやると、小さな子供達が釣竿だったり、網なんかを持って、その周りを楽しそうに駆けている。
子供は風の子、って奴かな。
冬なのに元気だなあ。
微笑ましく思いながらそれを眺めていると。
その中の一人の男の子が、ふと顔をこちらに向けて、わたしに向かって元気よく手を振った。
「YOUお姉ちゃーん!」
その子を見つめて、わたしのアパートの隣室の男の子だと言う事に気がついた。
「あ!久しぶりだねえ!お友達と遊んでるのー?」
「うんっ!そうだよ!今さっきねえ、こんなにおっきいお魚が取れて…そうだ!お姉ちゃんにも見せてあげる」
その子がしゃがんで、池をじっと見つめる。
お魚がいないかの確認かな。
可愛くて笑ってしまう。
「あ、いたよ!ほら、ここに今っ…」
魚影が見えたのか、彼は急に立ち上がり。
他の子がその声に振り向いて。
「ほんと?見せて!」
運悪く、重なって。
身体がぶつかり、軸がブレて、バランスを大きく崩した。
「うん、ほんと……え?」
ドボーン、と大きな水音がそこら中に響いた。
彼が池に落ちた、という事を理解するのにそう時間はかからなかった。
「きゃあああ!大丈夫!?」
他の子達が池を覗き込む。
「ごほっ…げほお!!た、助けて…!」
苦しそうにもがきながら、手を伸ばす。
その動作を見て、わたしは叫びながら、勢い良くそこに向かって走り出した。
「大丈夫っ!?待ってて!!お姉ちゃんが、今行くから!!」
コートを荒々しく脱ぎ去り、ハイヒールを履き捨てる。
ぶん、とカバンを彼に向かって投げる。
「それに掴まってーー!!」
大声で呼びかけると、彼が溺れながらそれを必死に掴む。
しかし、如何せん浮力が足りない。
ゴボゴボと淀んだ音を口元で立てて、彼は浮いたり沈んだりを繰り返す内に。体力が消耗されたのか動きが減り、水の中に吸い込まれそうになっていく。
「どうしよう、お姉ちゃん!」
「…わたし、泳げないのお!」
「待ってて!!大丈夫っ…だから…!」
すーっと息を吸い込み、わたしは一思いに。真冬の池へと飛び込んだ。
まず最初に感じたことは。
痛い……!!
肌に感じた鋭い冷たさは容赦が無く、皮膚が縮こまり、頭にズキンとした痛さを送った。
全身が凍りつく様だった。
泳ぎ上手な彼に習った、布団の上での泳ぎ方。
見様見真似で、思い出しながら。カナヅチ、のわたしが少年の元まで涙目で進む。
冷水を顔中に浴びて、鼻に入った水に呼吸が圧迫され、吐き出そうにも苦しくて吐き出せない。
折角綺麗に纏めた髪も、池に浸かってしまい、グズグズで。わたしに絡みついて、体力を奪っていく。
傍から見たら、わたしと少年、どちらが溺れているか分からないだろう。
それでも、それでも…!
「大丈夫…だかっ…ら」
必死に水をかき分け、死にものぐるいで泳ぐ。
「わた…し…に、掴ま……って…」
何とか辿り着いた所で、意識が危うくなる。
「お姉ちゃん!!」
腕にしがみつかれて、安心しきった所で、力が四肢から抜け落ちた。
少年の細い小さな身体がやたらと重く、一人で精一杯の泳ぎが、出来るはずも無く。
……沈む…。
でも、この子だけは助けなきゃ…!!
「…わたし、はいいから……!」
最後の力を振り絞って、少年を、わたし達の方向に網などを伸ばしている子供達の方に投げた。
火事場の馬鹿力、という奴だろう。
これまでにない程の力が自分から出たのが分かった。
水の抵抗をものともせず彼が進み、その小さな手が、釣竿の先と網を掴んだ。
わたしはその反動から、更に岸から遠のいたけれど。
……良かった。
子供達が彼を引っ張り、岸に上げる。
それを見届けると、自分の身体の感覚が無くなっていることに気がついた。
これで本当に、最後の力を使い切ったらしい。
身体中が動かなくなり、足から池の深くへ、深くへ、と落ちる様に沈んでいく。
子供達の泣き声と、わたしを呼ぶ声を後に。
視界が暗転した。
「…YOU!YOU!!」
子供の様な、泣き声?
「……死なないで!」
いや、違う…。
最愛の人が、わたしを呼ぶ声だ。
「……死んでなんか…いませんよ」
ゴフッ、と肺にまで入ってしまった様な、水を地面に吐き出して、彼に笑った。
「…十四松、さん……」
十四松さんが目を大きく見開いたかと思うと、その両眼から大量の涙が零れた。
「…うっ、うっわああああああん!!」
冷えきってずぶ濡れのわたしの身体を、彼が泣きながら包み込む。
「ぼくっ、ぼくね!YOUが、死んじゃったかど、思ってえ!!」
…暖かいなあ、十四松さん。
「ふふっ…そうなんです、ね…。心配掛けて、ごめんなさい…」
ボロボロと零れる彼の涙を、わたしは濡れた指先で拭う。
そうすると、彼が益々わたしを強く抱き締める。
「謝んないでえ…」
「…十四松さんが、助けてくれたんですね」
十四松さんが大きく頷く。
本当に、十四松さんはわたしの王子様だな。
「十四松お兄ちゃん…YOUお姉ちゃん…ごめん、なさいっ…僕が……」
「ごめんなさい…」
わたし達を取り囲んでいた子供達が、ポロポロと涙を流して泣き始めた。
「んーん…大丈夫、だよ…YOUお姉ちゃんは、みんなが元気で、良かったあ…もう平気?」
少年に首を傾けると、彼が涙で濡れた顔でこくこくと頷く。
「そっかあ…ほん、とに……良かっ…た……」
「YOUっ、YOU…!!やだ、もう何処にも行かないで!」
安心感から目を閉じそうになると、彼がわたしにしがみついた。
「…みんな、もう帰って大丈夫だよ」
そんなわたし達をまじまじと見つめる子供達に思わず頭を掻いて、帰りを促す。
「…でも」
「これからは、ちゃんと気をつけること。それだけ守ってくれたら、怒ったりしないから」
「……うん」
「うん、やっぱりいい子だね…」
子供達が帰って行っても、十四松さんはわたしを抱き締めた腕を離すこと無く。
「怖かったあっ……!」
ずっとずっと、泣いていた。
「あの、十四松さん…」
そして、ようやく泣き止んだかと思うと。
「なんで土下座してるんですか!?」
十四松さんが跳ね上がってわたしから離れ、その場に深々と、頭を地面に擦り付ける様にして土下座を始めた。
わたしがそれを止めさせようとしても、彼はふるふると首を振って止めようとしない。
「本当に!罪悪感があるので…お願いだからっ辞めてください!」
頼み込むと、十四松さんは恐る恐る、と言った感じで顔を上げてわたしの様子を伺う。
「ぼく、あのっ……」
彼はわたしと目が合うと、真っ赤になっていく。
もじもじと言い淀む十四松さんの言葉を待っていると、いつもの彼では考えられない程に小さな声で、呟いた。
「じ、じっ…じんこーこきゅー…し、しちゃいやした」
…人工呼吸?
「…へ?」
人工呼吸、人工呼吸。
普段の生活ではあまり聞きなれないその単語を反芻し、その行為が行われている情景を、わたしと十四松さんで思い浮かべた。
いわゆる、口と口、で行う蘇生行為。
「う、うそおおおおお!!?」
ぼふん、と顔に熱が上り突飛な甲高い叫び声が出る。
「さーーーせん!!本当にごめん!!ごめんごめんごめえええんっ!!まじでごめんなさインサイドプロテクター!!!」
彼はごめんごめん、ごめんなさいごめんなさい、とわたしに謝り続けながら、更に勢いを付けて何度も頭を地面に打ちつけて、土下座をする。
「ぼく!変な気…とか、無くて!!いやでも、そりゃあYOUに、ちゅ、ちゅーとかしたかったけど!!」
蘇生行為、と軽く捉えていた事を彼に可愛らしく表現されて顔の熱が高まっていく。
曲がりなりにも、わたし達はキスしてしまったという事だろう。
「でも!でもでもでも!!本当に、そんな気は無くて!!ごめんなさい、って思ったけど!なかなか、YOUが目を覚まさなくて、不安になって……」
十四松さんの声が、段々小さくなっていく。彼は物凄く葛藤して、悩んだ挙句どうしようもなくて。
わたしに気を使ってくれていて、でも隠し通すことは出来なくて。
十四松さんは優しいから、困ってしまったんだろうな。
「女の子、は……口とか、特別、なんでしょ?」
小さく頷くと、彼はごめんなさい、と泣きそうな声でそう言った。
「……でも、仕方の無い事だと思いますよ」
「…え」
「だってわたしが溺れていて、仕方無く…でしょう?」
「……うん」
十四松さんが、ぎゅーっとズボンを掴むのが見えた。こんなに優しい人を困らせるなんて。
わたし、性格悪いなあ。
そう胸中で呟いて、彼に向き直った。
「…なんて」
その場でくすくすと微笑むわたしを、十四松さんがぽかんとして見つめる。
「片方が意識が無かったら…ノーカウント、ですよ」
「えっ?」
「……わたし、十四松さんの事が好きです」
好きな子は虐めたくなる、なんて馬鹿馬鹿しい言葉が鮮明に思い出された。
「ええええ!!?ほ、ほんと!?」
「はい、本当に。だから、わたしが起きてなくて残念だな…って」
思いを吐露すると、彼が自分の両頬を挟み込んだ。
「ひゃああ……うそ、みたい…」
しばらく彼はぽーっとしていたけど、我に返った様に飛び上がり、わたしの元に近づいた。
「あれ!?ねえっ!ざ、残念…ってことはぼくがYOUにちゅーしても…いいんすか」
「…はい」
「マジすか!!ぼ、ぼくすうっげえ嬉しい!!」
ひゃーっ!と彼が叫んで真上に飛び上がる。
バタバタとパーカーの袖を振り回して、唐突にその腕をわたしの背中に回した。
彼の腕は逞しくて、抱き方が優しくて、心が落ち着く。
そして目をぎゅっと閉じてわたしに顔を近づける十四松さんの唇を、人差し指で制した。
「えっと、YOU…?」
開いた目を丸くして不思議そうにする彼は何とも言えず可愛い。
「もう一回だけ、十四松さんからの告白が聞きたいな…」
ぼそっと囁くと彼の顔が火が付くんじゃないかと思うくらいに赤くなり、弾ける様にわたしの元から離れる。
「こ、これ!YOUにっす!!」
わたしを助けてくれたからだろう、水に濡れてしまった5輪の黄薔薇を彼がばっと差し出す。
「ぼく、YOUが大好きっす!!こうやって!ざばーんって!泳げないのに飛び込んだりする所とか!!」
彼の、大きな飛び込みの仕草に苦笑いしつつもその言葉を受け止める。
「にこって笑った時の顔とか!泣いてる所とか見ると、もうすっげえドキドキして!!」
わたしも、全く同じ気持ち。
彼の笑顔に心が暖かく跳ねるし、泣き顔には心が苦しい程に動揺してしまう。
貴方が、好きだからなんだ。
この思いに、間違いは無い。
淀みは無く、清潔な愛。
「マジで!!YOUの事が一番大好きっす!!YOU、ぼくと付き合って下さい!!」
純粋な貴方といられるなら、わたしも貴方に釣り合う程に綺麗になれるかも、なんて。
「…わたし、十四松さんの事が大好きです」
わたしは、彼から薔薇を受け取り、そう答えて微笑んだ。
「よいしょーーー!!」
「きゃああっ!?」
十四松さんがその瞬間わたしを担ぎ上げて、嬉しそうにグルグルと回り始めた。
「あはははははー!いっえーいっ!!YOU、ありが特大ホームラーーン!!」
十四松さんの笑い声に釣られて、彼の腕にぎゅっとしがみついていたわたしも笑みが零れた。
「ふふっ…危ないですよ、十四松さん」
二人でケタケタと笑いながら。
彼に身を任せて、今を楽しむ。
回る景色と、大好きな貴方の大好きな笑い声と、眩しい笑顔。
「……大好き!!」
十四松さんと見つめ合えば、彼がにっこりと。
満面の笑みと素敵な愛しい言葉をわたしにくれた。
「…大好きです!」
わたしも、彼程ではないだろうけど。
精一杯、心からの笑顔を捧げた。
そして、真っ直ぐで照れるくらいに率直な言葉を。自然に言うことが出来た。
二人でコツンとおでこを合わせて笑い、目を閉じた。
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作者名:なえ | 作成日時:2017年1月3日 17時