161話 見透かされている ページ25
先輩は部活が休みになる日があったらしく、それが私の休日と重なっていることに気がついたため、どこかに出かけないかと誘ってくれたのだ。
しかし、生憎そんなことのあった直後で言い淀んでいたのを、見事に見透かされ、それならばと、教師役を買って出てくれた。
範囲であろうテキストを開き、1問目でつまずき、不二先輩が色々質問をしてそれに答えた結果、根本から教え直す、とのお達しが2時間ほど前に通達された。
不二先輩はいつもの穏やかでおおらかな雰囲気を変えることなく、何も答えられない私に根気強く、わかりやすい言葉や例えで教えてくれる。
私が言うのも何だが、よくイライラしないものだなと感心してしまう。
不「……で、これが誰にあたる部分だから…………ーーーA？」
貴「あ、はい！」
不二先輩の声で意識が浮上する。
目の前に、少しだけ眉を寄せた先輩の顔があった。先輩が僅かに首を傾げて私に問いかける。
不「ちゃんと聞いてる？」
貴「あ、えっと、その……」
思わず口ごもって視線を逸らす。
せっかく先輩が教えてくれていたのに、まさかその原因が「よく教えられますね」なんて口が裂けても言えない。
貴「す、すみません」
うまい言葉が出てこずに謝ると、不二先輩はふっと息をついて、また口元に笑みを戻した。
不「まあだいぶ長い時間やってるし、少し休憩にしようか」
その言葉に私は安堵し、長く息を吐いてペンを置く。
氷の溶けきったオレンジジュースを口に含んだ時、不二先輩が私を見つめているのに気が付き、意図せず視線が絡んだ。
不「で？ 何で見つめてたの？」
それを待っていた、とばかりに、変わらない表情といたずらな声音で問いかける。何も言っていないのに見透かされているような気分になり、少し座りが悪かった。
何も無いですよ、と軽い口調であしらっても、「へえ」と意味深なひとことが返ってくるだけ。
視線の置き所もなく、ソワソワとオレンジジュースの入ったボトルを手のひらで弄ぶ私を、先輩がじっと見つめる。
からかわれているのは分かっている。私が先輩の顔面に弱いということを分かっててやっているということも。
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作者名：葉奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時：2022年8月26日 17時
