162話 デート ページ26
負けじと視線を逸らし続けるが、ストローで吸っていたオレンジジュースがズコッと間抜けな音を響かせて数秒後、私は口を開いていた。
貴「いやあ……その」
私の声に、不二先輩の口元の笑みが深くなる。ああ、またやられたな、と思いながら、私は言葉を続けた。
貴「……私が言えることじゃないですけど、その……よく、私なんかに穏やかに教えられるなあって。奏恵とかに『もう知らん！』ってキレられることあるし……」
自分で言っていてだんだん情けなくなってきた。
語尾を濁して、前髪の隙間から不二先輩を覗き見る。
口元の笑みはそのまま、私を試すように先輩の目がスっと細められる。
不「……わからない？」
ひとこと、問いかけを問いかけで返されて、私はボトルから手を離して首を傾げながら腕を組んだ。
わざわざ聞くということは、今までの中にヒントがあったということなのだと思う。ただ、いくら考えても良い答えは浮かばず、諦めて首を振った。
すると、先輩の視線が私を覗き込み、用意していたように短く言った。
不「僕は昨日、君をデートに誘ったんだよ」
貴「っ、それは、その」
先輩の言葉に声が詰まる。
今までお互い部活やら何やらで、あまり外で会うことはなく、精々帰りに待ち合わせをして少し話して帰る、というのが定番だった。
今日、会っているのも、私はその延長の気持ちでいたから、真っ直ぐに『デートだ』と言われると、面映ゆさが勝ってつい目を逸らしてしまう。
不二先輩が私の答えを待つように間を作っていた。それでも私の答えは出ず、むしろ疑問が募るばかりだった。
貴「じゃあ、余計に、なんで……嫌じゃないですか？ こんなこと」
不「どうして？」
問い掛けの応酬が始まってしまった。不二先輩はどうあっても私に答えを解らせたいらしい。こうなると、先輩はかなり頑固だ。
私が答えを出せずにいると、不二先輩がふっと息を吐いた。
不「デートって、どういうことか分かってる？」
言い聞かせるように、ゆっくりと、先輩の声が私に届く。
デートの定義なんて普段考えないだけに、改めて言葉にしようとすると、気恥しさからしどろもどろになってしまう。
貴「え……だから、その……こ、恋人同士で出かける……とか……」
不「うん、そうだね」
何とか絞り出した答えに、先輩はあっさりと肯定した。
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作者名：葉奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時：2022年8月26日 17時
