黒猫さん ページ33
「ところで名前は?」
気絶寸前の私を我に返させたのは、チャラくて飄々としているが、実はメンバー1常識人じゃないかと疑っている葉月 陽さん。
「あ、あ、あ、あ、えっと―――――」
我に返り、冷静になったのは束の間。再び前を向き、眼前にある端正なお顔の数々を目にしたら途端に声が出なくなってしまった。
何時もの外面よし子さんの私は何処へ云ってしまったのだろうか。此れでは言葉が喋れない顔なしである。
「ねえ……」
わたわたと挙動不審になっていると、遠慮がちにちょんちょんと服の裾を引っ張られた。
「ヤマト、触る?」
浮世離れした雰囲気を醸し出し、本当に歳上ですか?と聞きたくなるような幼さを残した美少年、水無月 涙さん。そして警戒気味に差し出されたのはごろごろ、彼の腕の中で心地良さそうに眠っている黒猫。
「え、良いん、ですか?」
震えてはいるが、漸く声を発する事が出来た。
「ちょっとは、落ち着けるかも。」
頷きながら、黒猫「ヤマト」を私にそっと手渡してくれた。
動物は一部を除くが全般的に好き。うちでも飼おうと思ったが、如何せん、マンションはペット禁止。あの右京くんが許してくれる筈もなく、なかなか動物と触れ合える機会がない。
だから、ふわふわとした毛並みに動物でしか感じられない温もりに触れられ嬉しかった。
「僕は水無月 涙、です。きみは?」
「あ、えっと、柊木です………柊木 A。作曲家としては柏木 Aと名乗っているので、そちらで呼んで頂けると助かります」
水無月さんから溢れ出すマイナスイオンのお陰で、ようやく普段の冷静さを少しだけ取り戻した私は、まだまだぎこちないが名前だけはなんとか言うことが出来た。
「おお、涙が珍しく積極的だ。」
文月さんが此方を眺めながら感嘆の声をあげる。
「お茶淹れたんで、良かったらどうぞ。」
長月さんの優しい笑みに何処か安心感を覚え、緊張も和らいできた。
「あ、ありがとうございます。」
まだまだぎこちない御礼だったが、上手く笑う事が出来た。
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作者名：櫻餅 | 作成日時：2017年5月29日 10時
