もう、死んでも良いわ ページ32
他愛ない話をし、すっかり隼さんと打ち解けて数十分後、大きなマンションの前に位置する駐車場へと車が止められた。
「さあ、着いたよ。」
車から出て、自分の背丈の数倍はあるマンションを見上げる。
流石は人気アイドルが使う寮、外装からして手入れが行き届いていて綺麗であった。
「お、お邪魔します。」
隼さんにエスコートされるまま、寮の中へと足を踏み入れる。寮の中も言わずもがな、広くて綺麗だ。
「まずは皆に君を紹介しなくちゃね。もう集まってるよ。」
「えっ、あの、いきなりはちょっと!」
長年憧れてきたプロセラメンバー、まだ心の準備が出来ていないと言うのに有無を言わさず手を引かれ、皆の居る共有ルームへと案内された。
短時間で、この魔王様は人の話を全く聞かないことを私は学んだ。
「皆、ちゅうもくー。」
パンパンと軽く手を叩き、独特な間を含んだ喋り方と声でそれぞれ好きなことをしていたメンバー達の視線を一気に此方へと集める。
彼等の視線が見馴れたリーダーではなく、見知らぬ只の小娘である私に注がれた。
一気に体温が上昇し、血の流れが早くなる。心拍数は途端に上がり、顔は沸騰しそうなくらい熱い。
駄目だ、前が見れないとうつ向いてしまった。
「この子が例の作曲家か?」
此の低く耳を刺激する声は、グループの頼れる兄貴分、文月 海さんだ。
「嗚呼、可愛いでしょ?」
ニコニコと上機嫌な隼さんに冗談混じりに褒められ、更に顔だけでなく耳まで熱くなってしまった。今なら溶けれる気がしてならない。
「あの、何か顔真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
「んー、大丈夫なんじゃないかな。」
紺色エプロンをして、両手にクッキーが入った皿を持ちながら此方を心配そうに眺めるのは女子力担当の長月 夜さん。
否、全然大丈夫じゃないです。今にも全身の血液沸騰して倒れそうですと、隣でいまだに笑っている隼さんに言いたいが、もう今は緊張のし過ぎで声が出ない。
「大丈夫?」
前向きで元気なスポーツ少年、神無月 郁さんに顔を覗きこまれ、とうとう私の頭は限界を超えた。
だって端正な可愛い顔が目の前にあるのだ。仕方がない。
「多分…………ダイジョウブデス。」
私は感動の余り、流れ出てきそうな涙を隠すため目元を押さえた。
もう死んでも良いくらい満足である。
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2017年5月29日 10時