梅がこぼれ、椿が落ち、牡丹は崩れ、雪柳は吹雪き、菊が舞い、命が散る。 (ページ48)

今日:29 hit、昨日:2 hit、合計:62,965 hit

●四十五匹と四十五本ページ48

・
・
・
・
・
・
・
・

百鬼は自分の部屋に戻るとすぐに風呂に向かった。

酒と煙草の匂いのする服を脱ぎ捨てシャワーを浴びる。

汚れた体を綺麗に洗い流すと、新しい服に着替えた。

『……っぐ』

突然百鬼を激しい吐き気が襲う。

喰種が人の食べ物を体内に入れると、吸収することができない。味も不味く感じられ、食べられたものでない。大量に食べ過ぎると、赫子を出すこともまともに戦闘もできなくなってしまう。

((……さっきの平子さんの家で食べたやつが…………ぅっ……))

先ほど食べた朝食はかなりの量だった。それを残さず全部食べたことでかなり百鬼の負担になっていた。

思わず吐き出しそうになる。急いで洗面台に向かい、下を見て吐き出そうとした。

・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・

ふと百鬼の頭に

平子の顔が浮かんだ。

『………！！』

初めて会った時の平子。

公園であった時の平子。

喫茶店で一緒にいた平子。

喰種と戦っている時の平子。

平子の笑顔。

いつからか、平子の表情が読み取れるようになっていた。

気付いた。

気付きたくなかった。

平子に対しての思い。

好きだった。

いつしか平子の存在が

百鬼の中で大きいものになっていた。

・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・

『………』

百鬼は襲ってくる吐き気を飲み込む。

急いで冷蔵庫を開き、水の入ったペットボトルを取り出し一気に飲み込む。

そのまま胸を己の拳で叩き、飲み込む。

((………折角作ってくれたものを………吐き出すなんて……駄目……))

暫くして吐き気も収まり、若干の気怠さが残るものの何とか落ち着く事が出来た。

口元を拭い服を整えてから、あんていくに向かう準備をする。

((………そういえば、連絡してなかったわね…。心配かけちゃったかしら……))

百鬼は自宅を出て鍵を閉める。

既に日は高い位置にあり、日差しも強くなっている。

明るい光に目を細めながらあんていくへの道を歩く。

・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
蝶は羽ばたく。

その行く道に咲く花は

その蝶に蜜を吸われ息絶える。

その蝶に忍び寄る

一匹の蜘蛛。

その存在が

全てを変える事になるとは

誰も知らなかった。