鬼灯の冷徹短編集＊大人味 (ページ1)

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ビターな恋を貴女と【加々知さん】ページ1

『加々知さんの耳は少しだけ尖っているのね』

ｰｰｰｰ今まで気が付かなかったけど、何だか鬼の耳みたい

微笑みながら、私を見上げたAさんの目は一点をみつめている

「あ…」

擬態薬の効果が薄れた。

いつもより時間が僅かに早い気がするが
常用性によるものか

額を然り気無く触ってみれば
幸いにして角はまだ出ていないが

ｰｰｰｰ失態だ

…仕方ない

「よくわかりましたね…実は鬼なんですよ、私」

開きなおる私はAさんに顔を寄せると、内緒話をするように冗談めかして低く低く囁く

『え…？』

面白いこと言うのね、とAさんは無邪気に笑った

…どうせ信じちゃいないだろうが、嘘じゃない

「だって"鬼"でしょう。この出張の間中、貴女の気持ちを知っていながらずっと気付かない振りを貫いた私ですし…」

"鬼"の意味を都合よくすり替えた訳ではないが
これも嘘じゃない

派遣されたその日から、私を追うAさんの熱っぽい視線の意味は分かっていたが、最後まで知らぬ振りを決めこんだ

Aさんにとったら、私は冷酷な"鬼"に他ならない

「…それに、気付いてないとでも思ってました？」

『…なんの事…？』

「貴女、ずっと私とシタかったんでしょう？」

『シタいって…なにを…』

「何って…自分が一番、分かってるじゃないですか」

首を締め付けるネクタイを緩めながら、徐々に壁際に追い詰めたAさんの退路を両腕で塞ぐと、怯える貴女に無理やりキスをする

『ちょ…っ、やめ…』

「嫌です」

押しかえす貴女の力なんて、些細なもの
寧ろ抗われたほうが燃える

『加々知さん…っ！』

それでも無駄と知りながら、身を捩って逃れようとするAさんの柔らかな身体を壁に強く押し付けると

もう一度噛みつくようなキスをした

…‥#2へ続く