薄桜鬼〜明眸の千里眼〜第三章より

もう一つ ページ30

境内に退いた両名は天霧、不知火と合流した。
彼等と既に一戦を交えていた近藤と羅刹の山南は土方達の加勢にホッと安堵していた。
だが、風間の他に京助の姿を見止め、二人はグッと唇を噛み締める。

近藤「確か長州の・・」

土方「あぁ、都京助だ。
どういう目的かわからねぇが、奴らと手を組んでやがる。」

『都京助』と言えば、佐幕派では有名な志士だった。
桂小五郎が長州の表の顔ならば、都京助は裏の顔と言えるだろう。
新選組のお尋ね者の一人である。

風間「手を組んでるとは侵害だな。
コイツがこちらに転がり込んだだけで、俺達は仲間ではない。
ただ、目的と同じくするだけだ。」

土方「風間と目的が同じ・・？」

土方は先刻から気になっていた風間の言動と行動を思い出した。
千鶴をしきりに狙う行動。
ただ一つの思考に当たった土方は京助を睨み付けた。
だが、京助は土方の心を読み取り、小さな声上げて笑った。

京助「残念、僕は雪村千鶴に風間ほど執着していない。
まぁ、いたらいたで都合がいいだけ。
僕が探しにきたのはAの方だからな。」

全員が戦慄する。
それは、その場にいた誰もが脳裏に浮かべた疑問の答えだったのだ。
それを京助は事も無さげに返答してしまった。
近藤や土方、山南はそこで悟ったのだろう。
京助の持つAと似た能力と、試衛館を破門されたAを育てた人物なのだろと。

京助「一つ、教えておこうか。」

京助は突然、人差し指を立てて温和に微笑んだ。

京助「僕とAの能力は確かに同じ【千里眼】だ。
けど、アイツが持つ能力はもう一つある。」

土方「もう一つ？」

だが、そこで京助は口を閉ざした。
立てていた人差し指を鼻の前に持ってきて、温和で悪戯を企む子供の様な微笑みを携えている。
まるで『聞きたくば、僕を倒せ』と言いたげであった。
土方は楽しむように口角を上げた。

土方「面白れぇ。
その勝負乗ってやるよ。」

土方は一歩、前に出た。

土方「あんなに真っ直ぐで嘘も知らねぇ様だったAが、あんな笑い方を覚えたのが不思議だったんだ。
本当の自分を中に押し込めてるみたいな、あの笑みがな。
長州のお前をとっ捕まえて、アイツの事を聞けるなら一石二鳥だ。」

土方は刀を構えなおし、京助に向かって渾身の突きを繰り出した。
それが戦闘の合図になったのだろ。
風間には近藤と山南が、天霧には永倉が、不知火には原田がそれぞれ得物を向けるのだった。

質問→←鼓動

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す