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3章 小さな世界( 3 ) ページ34

それに、彼に風邪を移してしまったら大変だろうと考える。

…いや、零や凛月にも移してはいけないんだけど。

二人も私もちゃんとマスクを付けてはいるものの、マスクだけでは風邪を完全に防ぎ切れない。

私は必死に首を振っても、じゃが、と零は話を続ける。


「そうは言っても、Aちゃんは風邪薬も持っとらんじゃろ?夜間救急外来ならやっとるかもしれんが、今のAちゃんではそこまで行くことがまずできん。それに市販の薬を買って飲んでもそう効かぬしな。……じゃが、逆先くんなら薬を持っとる。彼の薬は効くぞい♪」


……色々聞きたい点はある。
…けど、どうして零が夏目くんの薬が効くのか知っているのかは聞かないとして、何故彼が薬を持っているのか。

…確かに私は薬を持ってないけれど。


「………えっと、先ず此処には来させられないとして、どうして夏目くんが薬を?」



「あの子はよく薬品の調合だとか実験だとかをしてるのじゃよ。素人に毛が生えた程度の知識とはいえ、夏目くんはそれなりに知識も蓄えておる。市販の物よりは効くかもしれんのう?」


「手作りなんだ………!?しかもそ、それ、素人に毛が生えたってレベルじゃないんじゃ………」


まさかの手作りで吃驚してしまった。いや、実際はそこまで驚きでも無い。


夏目くんなら作っていても可笑しくなさそうだ。


彼に迷惑は掛けたくないけれど、零の言う事も一理ある。
確かに、私はこのままじゃどうにもならないだろう。お父さんとお母さんも外国だし、他に頼れそうな身内もいない。


そうして考えていれば静かに私達の話を聞いていた凛月が口を開いた。


「……ともかく、兄者に同意するのはすんごい癪だけど、今回はAも素直に兄者の言う事聞くしかないと思うよ。昼間も誰かに見ててもらわないと風邪だって早く治らないだろうし。街に行くのが遅くなってもいいの?」


「………………それはやだ。」


街に行くのが遅くなるのはもっと嫌だった。

あの輝きは、私にとって唯一の癒やしであり居場所なのだから。


街が逃げたりする事はないけれど、あの場所に暫く行けないとなると私はこの部屋の息苦しさに窒息して死んでしまうかもしれない。


風邪は直さないといけない。けれどそれ以上に彼らにもう迷惑を掛けたくない。けれど、そうしなければ私の風邪は治らない。



葛藤が渦巻いてもう私は泣きたくなった。
そして昨日傘を黙って買わなかった事を死ぬほど後悔する。本当に、私はバカだ。

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エンドロール - すごくこの作品好きです!描写も細かいし何より読みやすくて面白い!これからも頑張ってください、応援してます。 (2020年1月18日 13時) (レス) id: feeead544b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ドロップ | 作成日時:2020年1月15日 9時

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