310：俺の夢、私の夢 ページ14
「旅をしてるとさ、たくさんの出会いがあって…その分たくさんの別れがある。今でも慣れたわけじゃないし、俺だって寂しかったり悲しかったりするよ。…けどみんな同じ空の下を歩いてるんだ。いつかどこかで、きっと会えるさ」
その言葉が、Aの心のしがらみを解き放った。
私の夢。
私が目指したいもの。
Aは乱暴に袖口で涙を拭うと、サトシの隣に立った。
「…ありがとう、サトシ。私決めた」
サトシがAの横顔を見ると、濡れた睫毛に縁取られた瞳は夜空よりも輝いていた。
「私、やってみたい。今日たくさんの人の前で歌って思ったの。私の歌を、もっとたくさんの人に聞いてもらいたい。サトシが私に希望をくれたみたいに、誰かに笑顔を届けられるような歌を歌いたい。…それが、私の夢！」
そう宣言した彼女の声に、もう迷いはない。
「頑張れよ、A。応援してる！」
「私も。サトシなら絶対なれるよ、ポケモンマスター！」
サトシが拳を突き出すと、Aも拳を差し出し、コツンとぶつけた。
「サトシのおかげで、何か吹っ切れたよ。ありがとう。…私、ヒカリとタケシにも伝えてくる！」
Aがベランダを後にすると、今までサトシの足元に寄り添っていたピカチュウは肩の上に登り、サトシの頬に擦り寄る。
はらり。
ピカチュウの上に、一粒の涙が落ちてきた。
…ピカチュウは、全て分かっていた。
サトシが帽子の下で、瞳を潤ませていたことを。Aに決して涙を見せまいと、必死にこみ上げてくる思いを堪えていたことを。
「…ん。ピカチュウ、大丈夫だよ」
Aに伝えた言葉は、自分に言い聞かせる言葉でもあった。
旅にはいくつもの出会いがあり、その数だけの別れがある。
誰かとさよならをするのは、これが初めてではない。けれどAとの別れを実感した瞬間、今までに感じたことのないような寂しさを感じてしまった。…だから。
『みんな同じ空の下を歩いてるんだ。いつかどこかで、きっと会えるさ』
これは悲しい別れではない。
Aが初めての夢を見つけ、一歩を踏み出すのだ。
また会えるその日まで、自分の夢への道を突き進む。だから…とびきりの笑顔で。大切な仲間、後輩トレーナーのあいつを送り出してやりたい。
「Aが夢を見つけられたんだ。…ちゃんと、送り出してやらないとな！」
「ピッカ！」
流した涙は一粒だけ。
ピカチュウに笑いかけたサトシの瞳には、もうひとかけらの曇りもなかった。
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こうもり(プロフ) - 時間の止まったリスさん» ご感想ありがとうございます！DPはリメイクもされたのでおすすめです！パートナーとの冒険はすごく楽しいですよー！ (2022年4月30日 21時) (
レス) id: 9309100d6a (このIDを非表示/違反報告)
時間の止まったリス - これを機にポケモン始めようかな、なんて思いました(めちゃ時代遅れですね)。リスはピカチュウとポッチャマ時代で止まってますので。へへ (2022年4月26日 10時) (レス) id: d39a98933d (このIDを非表示/違反報告)
こうもり(プロフ) - 緑茶さん» こちらこそコメントありがとうございます！DPいいですよね…！！長いお話を読んでくださっただけでなく感想までいただけてすごく嬉しいです、ありがとうございます！ (2020年7月31日 20時) (レス) id: a41badf38a (このIDを非表示/違反報告)
緑茶(プロフ) - たまたま見つけて気付いたら全て読んでいました。DP私も好きなのでとても面白かったです。自分の夢に向かって歩き出す彼らを見ていたら涙が止まりません。素晴らしい物語をありがとうございます！ (2020年7月31日 1時) (レス) id: ab02c22683 (このIDを非表示/違反報告)
こうもり(プロフ) - moekaさん» コメントありがとうございます！最後のページに一覧を載せておきました！ (2020年2月22日 6時) (レス) id: a41badf38a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こうもり | 作成日時：2017年1月1日 20時
