こんにちは、お兄さん【衣更真緒】

３０回目 ページ30

「真緒さんが次に演じる役ってどんな役なんですか？」



ソファで並ぶように横に座りながらココアを飲む

そんな質問を投げかけられ、俺は机の上に置いてあった台本を彼女に渡した

ありがとうございます、と一旦机にマグカップを置いてから受け取った



「ベタな恋愛ドラマなんだけど…」



俺が貰った役はヒロインの彼氏の親友役、主役ではないが割と目立つシーンは数回あるから楽しみなのだ

パラパラと台本を読んでいるAちゃんを、横目で眺める



「面白そうですね…！いつ放送されるんですか？」

「んー…来週辺り撮影だから、まだ先だと思うよ」

「へー！絶対見ます！！」



ニコニコと屈託のない愛らしい笑顔を向けられ、心臓が大きく揺れ動いた

可愛い、と思ったが余計なことを口走らないように固く口を閉じた

じぃっと黙々と台本を読んでいくAちゃんをガン見してしまい、すぐに気付かれ目が合った

慌てて逸らそうとすると、柔らかい声で呟いた



「…お仕事、頑張ってくださいね」



その言葉に息を呑んだ

触れたいと手を伸ばそうとするが、それを彼女は"台本を返す"と勘違いしたのか

俺の手に台本を乗せた



「ありがとう、頑張るわ」



俺はすぐに笑みを浮かべた

あと15センチほど、隣にいると言うのに

その距離が何だか悲しくて

何より手を伸ばすことも出来ない自分が酷く情けなく感じた


俺の返事を聞いて、満足そうに笑うAちゃん

その表情で、俺は一つ決めたことがあった



「(トリスタのみんなに、相談しよう)」



明日、いや…日付をとっくに跨っているのだから正しくは今日だが

俺は自分でもどうしようもないぐらいに、彼女に惚れてしまっているのだと気付いたのだ

メンバーのみんなはなんて言うのだろうか

北斗は真剣な顔付き、スバルは興味津々、真は戸惑いながらもしっかり聞いてくれるだろう


脳裏に浮かんだそれぞれの表情に不安を抱きながら、マグカップに残っていたココアを飲み干した

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