8 ページ8
「!」
零は目を丸くした後、ふっと目を細めて微笑んだ。
「おぬしは優しい子じゃのう…。昔から。」
零は懐かしむ様に少女を見つめて言った。
少女は首をまた横に振って、零の言葉を否定した。
それから少女は、鞄の中を何度か見やってはごそごそと漁ったり、楽譜を取り出して鞄を逆さまにしたりして何かを探した。
零はその行動の意味をまだ理解出来ておらず、首を傾げて見ている。
探すのを諦めたのか、小さな溜息を一つ吐いて楽譜を戻し、零の顔に再び視線を向ける。
『…日傘は…?』
零は唐突な質問に、またまた目を丸くした。
そして両手をパッと広げて自分は何も持ってきていないことを示すと、少女は先程よりも大きな溜め息を長めに吐いた。
『なぜ…あれは貴方にとって必需品でしょう?』
「ほら、我輩お茶目じゃから。」
『理由になってません!…倒れたらどうするんですか、私運べませんよ!』
零が自分を軽視している事に少女は心配と苛立ちが腹から喉元までせり上がってくる。
「その時はその時じゃよ。万一その様な事が起きても、ここの学院の者は皆、思慮深く気遣いに長けておるからのう。大丈夫じゃ。」
『そ、そういう問題じゃ…』
「なんじゃ?他の者に預けるのは不安かえ?…嬢ちゃんが我輩を介抱してくれるのは有り難いんじゃが…」
『さっき言いました。私、運べません。』
「嬢ちゃんが我輩をお姫様抱っこして保健室に連れて行っておくれ。」
『無、無理…。』
現実的な観点から零を抱き抱えている自分自身を想像するが、確実に無理である。
何せ、零と少女との身長差はかなりある為、女子一人で抱えられる程容易な事ではなく、無謀な提案だった。
しかし少女は生真面目な性分が影響しているせいか、もしもそうなってしまった時の事を考え込み始めた。
周囲に頼れば良いものを、態々一人で
「…我輩そろそろ限界じゃ…。」
と力無しに言うと、零はふらっと少女にもたれかかった。
少女はどきりとして、零を支えた。
幸い二人とも木陰で座っている為、運ぶ必要はなかった。
『れ、零さん…?』
零に目線を動かすと、体調が思ったよりも悪いのか指先もやや冷たい。
『ほんっとうに、貴方という人は…!』
軽い貧血状態に近いのか、無理に立たせる訳にも、ましてや運ぶ訳にもいかず、助けを呼ぶにも人がおらず、少女は狼狽した。
「す、すまぬな…。少しだけこうさせておくれ。出来れば膝枕…」
『却下です。』
「えぇ…。」
105人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黒凛蝶 | 作成日時:2022年6月14日 16時