＊思い出のMother Goose ページ29
翔「大丈夫か？」
少し落ち着いてきたみたいだから、あそこじゃ流石に人目につくだろうし、中庭に移動してきた。
まあ、抱き締めといて今更なんだけどよ……
『ごめん……』
翔「なんでお前が謝んだよ？」
『迷惑かけた』
翔「迷惑なんて思ってねぇよ」
『でも肩濡れてる』
翔「このくらい平気だって。ほっときゃすぐ乾く」
そう言っても、まだ不安そうにうつむいてるA。
相当気にしてんな……
別に泣くくらいどうってことねぇし、むしろ我慢してしんどい思いされる方がよっぽど心配だってのに。
って、言葉で言っても多分余計へこんじまうんだろうな、こいつは……
うーん……
……あ、よし、これでどうだ！！
翔「Twinkle, twinkle, little star−−−……」
昔、病院にいた時に一緒に歌った中でも、一番お気に入りで、一番よく歌った歌。
“Twinkle, Twinkle, Little Star”
日本語で言う“きらきら星”。
Aが教えてくれた、英語版の歌。
Aも、驚いたように俺の方を見る。
翔「憶えてるか？この歌。お互いお気に入りで、よく歌ったよな」
俺のその言葉に、一瞬嬉しそうに笑うA。
でも、すぐに暗い表情になって、喉を押さえてうつむいてしまう。
翔「なあ、一緒に歌おうぜ？声出せなくても、俺がリードしてやるから」
そう言うと、また驚いたような表情で俺を見るA。
そんなAに、ニッと笑って返した後、また歌い始める。
A「……−−−……−−−」
少しして、ほんのわずかに掠れた吐息のような音が聞こえてくる。
隣を見ると、声が出ないながらにも、一生懸命に口を動かしているA。
俺も歌うのをやめないまま、“その調子だ”と言うようにAの手を握ってやる。
ようやくAも安心したのか、いつもと同じ、優しい笑顔を見せる。
それからしばらく、二人でいろんな曲を歌い続けた。
昔二人で歌った、“Mother Goose”のいろんな歌……
心なしか、昔みたいにAの歌声が聞こえてくるような気がして……
昔に戻ったみたいで、すっげぇ楽しかった。
なあ、A……
もし、もう一回チャンスがあるなら……
今度は“本当に”、一緒に歌おうぜ？
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作者名：十九 雷音 | 作成日時：2017年4月23日 1時
