明日の天気の話をしよう 6th【ars】 (ページ32)

今日:5 hit、昨日:3 hit、合計:958,845 hit

207.距離感の話。ページ32

上、ってのは屋上なんだなってもう分かる。

二宮くんが私のコンビニ袋を指差した。

「帰ってそれ、飲むんでしょ？」
「うん、そのつもりだけど...」
「じゃ、オレと一緒に飲めば良いじゃん」

そんな会話をしてたら、二階を通り過ぎてエレベーターは五階に着く。

二宮くんの後ろをついて、屋上へと出た。

「寒っ...」
「そう言うと思った」
「え？」
「ちょっと、これ持ってて」

彼は私にコンビニ袋を持たせると、ドアの横に置いてある木でできた箱の蓋を開けて覗き込んだ。

顔を出した時には、その手に毛布。

「これがあったら寒くないでしょ？こないだ一人で来たら寒くってさ、毎年これ位の季節には用意してんのよ」

そう言いながら、私からコンビニ袋を二人分取ってベンチに歩き出す。
そこに並んで座ると、彼は毛布をバサっと広げた。

「あ、ただこれ一枚しか無いからね？一緒に使う事になるけど、良いでしょ？」

私に半分毛布を渡すと、自分はベンチの上にやっぱり体育座りしてその半分にクルンと包まってる。
私も、肩から毛布を掛ける。

「ねぇ。何でオレ、Aがオジサンを狙ってると思ったか分かる？」
「え...？」
「もーちょい、こっち来て」

二宮くんに二の腕をグイっと引っ張られた。

「離れてたらお前の使える毛布が少なくなるよ？」
「あ...うん」

肩同士が触れて、二宮くんの息使いが肩を通して伝わって来る。

「Aの距離感だよ」
「距離感...？」
「オジサンとの距離感が近かったから。好きなのかな、って思った」
「そんなの...気にもしてなかった...」
「バカだね」

チラっと彼の視線が私を見て、口角がユルっと上がった。

「言ったでしょ？Aはガードが甘いって」
「...うん」
「じゃあ何で、今オレとこんな引っ付いてんの？」
「...あっ...！」

慌てて離れようとしたら、腰を抱き寄せられて

肩だけじゃなくって、身体の半分が二宮くんに触れた。

「オレ、バカな女は嫌い」
「......」
「Aはちょっとバカだよね」
「......」
「だから、ちょっと嫌い」

すっごい罵られてるのに、その声が初めて聴くような優しい声で

どうしたら良いのか分からない。

「だけどね」

まだ白くはならない息と一緒に吐き出された言葉

きっと、二宮くんは笑ってる。

「ちょっと嫌いだけど、すっげぇ好きなの」

何かムカつくけどね、って彼は

私の頭にゴツンと、軽く頭突きした。