明日の天気の話をしよう 6th【ars】 (ページ31)

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206.ダメの理由。ページ31

会員証を財布に入れてる私に、二宮くんが突然言った。

「Aって、オジサン狙ってんの？」

あまりにも想像してなかった言葉に、声も出ない。
多分、口をポカンと開けてる私に彼は続ける。

「Aに何度も失恋させんの可哀想だから言っとくけどさぁ...」
「......」
「オジサンはやめた方が良いよ」
「何で...？」

思わず訊き返してしまう。

何で二宮くんがそんなコト言うのか、どうしても気になった。

「あの人、婚約者居る」

二宮くんが、こっちを見ずに呟く。

「婚約者...」
「ん、居るよ。決まった人。だから、好きになったらダメ。お前、また泣く」

まだこっち見ない。

「そうなんだ...良かった...」
「は？」

やっとこっち見た。

「だってロールキャベツ男子だから、智さん！『彼女が何人も居る』とか言われんのかなって思った！良かったー...誠実な人だった！」
「はぁ？何喜んでんの？」
「だって、私そーゆー気持ちで智さんを見てないもん」
「え？そうなの？」
「むしろ、何でそう思ったのかを知りたい」

ちょっと気まずそうにへの字口になった二宮くんが、「コンビニ寄っても良い？」って言って私の返事も待たずにスタスタとそこのコンビニに入って行ってカゴを持ち、ポイポイとビールを入れる。

「今から飲むの？」
「さっきビールって口に出したら飲みたくなった」
「えー...こんなの見たら私も飲みたくなるなぁ...」

アルコール売り場に並ぶ缶ビールを眺めてたら、喉が鳴った。

帰って一杯やろう！
よし、そうしよう！
明日は休みだし！

私もビールを二本手にして、おつまみ売り場でさきいかを取ると二宮くんはミックスナッツを取った。

それぞれ会計をしてコンビニを出る。

風が吹く。
もう、すっかり秋の風。

智さん、婚約者いるのか...。
格好良いんもんね。

「何、A。秋風にセンチメンタルになっちゃった？」
「やっぱ、格好良い人にはちゃんと決まった人が居るんだなぁ...って実感しちゃって...」
「ンフフ、何それ」
「私は幸せになれるのかなぁ...なれる気がしないや」

呟くと何だか虚しくて、慌てて笑って取り繕った。

一緒に乗り込むマンションのエレベーター。

ちょっと重いコンビニ袋を右手から左手に持ち直す。

「ねぇA」
「ん？」
「上、行かない？」
「え？上？」
「うん、上」

いつものように操作パネルの前に立ってた二宮くんが振り返ると、その手元は5階のボタンしか押されてなかった。