明日の天気の話をしよう 6th【ars】 (ページ30)

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205.弐番。ページ30

「すいませーん」

入り口に背中を向けてた私は、お客さんが入って来てた事も気付いて無かった。

「はい、いらっしゃい」

私の頭に手を乗せたまんま立ち上がった智さんが、そっちに向かって別に焦った感じも無く微笑む。

「何よ、お邪魔だった？帰ろうか？」
「ふふっ、邪魔じゃないよ。ここ、おいで」

そう言って彼は、私の隣の椅子を引いた。

カウンターの中に戻る智さんと入れ替わるようにそこに座ったのは

「どーも。お隣、失礼」
「あ」

季節が変わったからなのか、一段と白く見える二宮くん。

「どうしたの？」
「どうしたの、ってラーメン食う以外に何があんの」
「まぁ...そうか」
「バッカだね」

ククって笑うと、「オジサン、灰皿ちょーだい」って言いながら口に煙草を咥える。

「『オジサン』じゃないでしょ？」

ちょっとしかめっ面した智さんが、二宮くんの前に灰皿を置いた。

「うっはひはー、おひはんはおひはんへひょ」

咥えた煙草に火を点けながら、何か喋ってる。
仕草は大人なのに、表情は怒った子犬みたい。

「全然分かんないけど、生意気な事言ったんだろうなってのだけは不思議と感じるねぇ」

私に向かって笑った智さんは、そのまま調理に戻った。

「あ、見て見て！私、三十四のファンクラブ会員になったの！」

さっき貰った会員証を見せると、二宮くんはフゥっと煙を吐き出して「見せてみ」ってそれを取り上げ人差し指と中指で挟んで眺めてる。

「オジサーン、こんなの始めたの？特典はあんの？」
「今ちょっと手が離せないから、Aちゃん説明してあげてぇ」
「口動かせば良いだけじゃん」
「面倒なんだもん。ニノちゃん、002番にしてあげよっか？入る？」
「入会費年会費不要なら入る」

特典、何？って私に訊いて来た二宮くんに三回来たらプリンサービスって教えてあげる。

「...別にいらんな...」
「え？美味しいよ？」
「プリンよりビールにしてよ！オレにはビール！」

やっぱりワンワン鳴いてる子犬みたいな二宮くんの前にラーメンを置いた智さんが「例外は無し！プリンのみ！」って言い切った。

何となく二宮くんの話の相手をして、結局一緒に店を出た。

夜道を歩きながら智さん手作りの会員証を見る。
二宮くんのには『〇〇弐二宮和也』。

「一番が良いなぁ...」
「良いでしょー。私、発足人だもん」
「オレのと交換しよ！」
「名前が違うでしょ！」

二宮くんがつまんなそうに、唇を尖らせた。