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さらさらと降り注ぐ雨に、土の香りが蒸し返す。数日地に潤いを齎している空は鈍色で、日の光を一つとして通さない。人の形を得たとはいえど、この体がニンゲンという生物のように日の光を浴びて栄養素を作るわけではないので、さしてこの長雨が身体及び精神に影響を及ぼすことはないが、美術品や武具として人の情緒にずっと触れてきたせいか、或いは天照の子である人間につくられた身であるからなのか、人間と同じように日の光が顔を見せなければ陰鬱とした気持ちになるのだ。
「左文字」と札を掲げられた部屋の前、縁側に腰を掛けてぼんやりと雨の粒を見詰めていると、ふと熟れた柿の実の香りが漂ってきた。思わずその甘い香りに釣られてそちらを見ると、同派の小夜左文字が盆の上に少し歪に切り分けられた柿の実と湯飲みを二つ乗せて此方へと歩み寄っている最中であった。
そろそろ八つ時の時間か、とその様子を見てはたり、と気付く。嗚呼、今日は折角の非番であったというのに、一日を棒に振ってしまったようだ。朝を過ぎた頃、皆より寝坊してゆっくりと起床してから、午前も午後もこうしてぼんやりと外を見詰めていただけで、一日が過ぎ去った。何十振りと刀を抱える本丸は、いくら大浴槽とは言え、夕方から入り始めれば結局最後の番の者は夜中になってしまうので、八つ時と同時に風呂の巡りが始まる。そうして、順が巡って風呂に入って、夕餉を食べて、そうこうしている間に就寝となる。この後何かをしようにも、何もできないだろう。なんと、時の進みが早いものか。しかし、折れるまで半永久的に続く刃生、たった一日の非番など瞬きの間にも満たない時間であることは確かだ。とはいえ、次の非番の日には、これをしておこう、あれをしておこうなどと予定を立てれるほどの用事も己にはなく、やはりこうしてぼんやりと一日を過ごすのが性にはあっているのだろう。
と、今日一日の後悔に清算をつけたところで、隣に到着した小夜左文字から声が掛けられた。
「宗三兄さま、柿、食べる？」
「勿論、食べますとも。お掛けなさい、」
座るように促すと、床に盆を置いて己の隣にその小さな体を落ち着けさせた。この小さな体で、この本丸の部隊総指揮を執る彼は、今日己と同じように非番の日であったようだ。己が起きた時には既に部屋にはおらず、きっと同じ非番の短刀の子と遊んできたか、それか要職に就く彼に指示を仰ぎに来た者がいたかのどちらかであろう。この柿を見るに、恐らく前者。柔い実の皮を剥くのに苦労したのか、細く歪な身になっている柿に思わず頬が綻んだ。前線ではあれほど器用に立ち回るというのに、本丸最小の小さな手では小刀を上手く扱えないのが、とても可愛らしい。本人にとっては、少しもどかしいところであるかもしれないが、そこが彼の良いところでもある。
「この柿は、小夜がとってきたのですか？ 柿の良い香りがします。美味しそうですね。」
「うん。今剣や岩融、秋田、五虎退たちと柿狩りに。」
「
さらさらと降り注ぐ雨に、土の香りが蒸し返す。数日地に潤いを齎している空は鈍色で、日の光を一つとして通さない。人の形を得たとはいえど、この体がニンゲンという生物のように日の光を浴びて栄養素を作るわけではないので、さしてこの長雨が身体及び精神に影響を及ぼすことはないが、美術品や武具として人の情緒にずっと触れてきたせいか、或いは天照の子である人間につくられた身であるからなのか、人間と同じように日の光が顔を見せなければ陰鬱とした気持ちになるのだ。
「左文字」と札を掲げられた部屋の前、縁側に腰を掛けてぼんやりと雨の粒を見詰めていると、ふと熟れた柿の実の香りが漂ってきた。思わずその甘い香りに釣られてそちらを見ると、同派の小夜左文字が盆の上に少し歪に切り分けられた柿の実と湯飲みを二つ乗せて此方へと歩み寄っている最中であった。
そろそろ八つ時の時間か、とその様子を見てはたり、と気付く。嗚呼、今日は折角の非番であったというのに、一日を棒に振ってしまったようだ。朝を過ぎた頃、皆より寝坊してゆっくりと起床してから、午前も午後もこうしてぼんやりと外を見詰めていただけで、一日が過ぎ去った。何十振りと刀を抱える本丸は、いくら大浴槽とは言え、夕方から入り始めれば結局最後の番の者は夜中になってしまうので、八つ時と同時に風呂の巡りが始まる。そうして、順が巡って風呂に入って、夕餉を食べて、そうこうしている間に就寝となる。この後何かをしようにも、何もできないだろう。なんと、時の進みが早いものか。しかし、折れるまで半永久的に続く刃生、たった一日の非番など瞬きの間にも満たない時間であることは確かだ。とはいえ、次の非番の日には、これをしておこう、あれをしておこうなどと予定を立てれるほどの用事も己にはなく、やはりこうしてぼんやりと一日を過ごすのが性にはあっているのだろう。
と、今日一日の後悔に清算をつけたところで、隣に到着した小夜左文字から声が掛けられた。
「宗三兄さま、柿、食べる？」
「勿論、食べますとも。お掛けなさい、」
座るように促すと、床に盆を置いて己の隣にその小さな体を落ち着けさせた。この小さな体で、この本丸の部隊総指揮を執る彼は、今日己と同じように非番の日であったようだ。己が起きた時には既に部屋にはおらず、きっと同じ非番の短刀の子と遊んできたか、それか要職に就く彼に指示を仰ぎに来た者がいたかのどちらかであろう。この柿を見るに、恐らく前者。柔い実の皮を剥くのに苦労したのか、細く歪な身になっている柿に思わず頬が綻んだ。前線ではあれほど器用に立ち回るというのに、本丸最小の小さな手では小刀を上手く扱えないのが、とても可愛らしい。本人にとっては、少しもどかしいところであるかもしれないが、そこが彼の良いところでもある。
「この柿は、小夜がとってきたのですか？ 柿の良い香りがします。美味しそうですね。」
「うん。今剣や岩融、秋田、五虎退たちと柿狩りに。」
「
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作者名：fia | 作成日時：2021年10月16日 14時
