20話 ページ22
「おい染谷、ちょっと来い」
「は?ちょ、倉持!」
御幸から忠告を受けた一時間後、昼休憩。
サチと唯とお弁当を食べようとしていたところをかなり顔の怖い倉持に手首を掴まれ連行された。
私の手首を痛みを感じない程度に加減して掴んだのは、きっと倉持の優しさの表れだ。
連れられてきたのは、屋上へとつながる階段の踊り場。
屋上は使用禁止なので人気は全くと言って良いほどない。
私を壁側に立たせて、倉持は押し黙っている。
私もこの張り詰めたような空気の中で下手に話を切り出す勇気はない。
数秒か、数分か。短いようで長いような沈黙を破ったのは、倉持だった。
「昨日、自主練来てたらしいな」
「う、うん…?」
「飯、作ったらしいじゃねぇか」
「おにぎりね。補食だよ、いつも練習の合間に食べてるみたいなやつ」
「今度俺にも作れ」
「…………はい?」
思わず聞き返してしまった。
俺にも作れって、どういうこと?
意味がわからない、なんで倉持がこんなことを言っているのか。
「いや、いつも食べてるじゃん。おにぎり。練習の合間に」
「あれマネージャー全員で作ってんだろ、どれがお前のか分かんねぇよ」
売り言葉に買い言葉のような、言葉の応酬。
……というよりも。
「……ていうか倉持、せっかく彼女が居るんだから、作ってもらえば良いじゃん?わざわざ私の食べる理由ないでしょ」
自分の言葉に胸が少し痛んだが、その痛みには気づかないフリをした。
的外れなことを言ってしまったのか、倉持は私の発言の後、再び黙り込んだ。
そして小さく息を吸ったかと思うと
私を壁に追いやって、倉持はドンッと両腕を壁に着き、逃げられないように私を囲うと言った。
「……なんでアイツらは良くて俺はダメなんだよ」
私を見下ろすその目は拗ねているように見えて、でも少し怖気付いてしまうような怒りや苛立ちを帯びているようにも見えて。
私は思った。
" 獲物を狙ったチーター " に捕らえられてしまった、と。
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マリイ - 丹波光一郎の小説も書いて欲しいです 丹波さん好きだけど小説無いんで (2020年8月15日 17時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:マカロニ | 作成日時:2020年7月24日 12時