5.マジカルクッキング ページ15
久しぶりに部活がオフだった今日この日。外はとびきりの晴天だというのに、古橋家には葬式並みの重い空気が流れていた。
エプロンをした俺たちの前に置かれた、黒い塊。花園と古橋はそれを、死んだ目で見つめていた。これが何かは俺も知らない。ただ知っているのは、俺たちは今日パンを作る目的で古橋家に集まったということだ。
事の発端はもちろん花園。好きな人ができたから手作りのなにかを渡したい、ということでわざわざパン作りが趣味の古橋に頼み込んだのだ。そうして出来上がったのが、黒い塊である。それは水分をほとんど失っていて、こうしている間にもボロボロと崩れて粉末が出来上がっている。
俺の隣にいる花園にちらりと目をやると、その大きな瞳にはうるうると涙が浮かんでいた。花園もやはり女の子だから、きっと好きな人に喜んでもらいたかったのだろう。花園に好きな人が出来たのは初めてで、妙なところで繊細な花園に俺はどうしていいか分からない。
そんな俺を見越してか、古橋がポン、と花園の頭に手を置いた。あの古橋が、と俺がぽかんとしてる間に、古橋はあの無表情のまま口を開く。
「大丈夫だ、お前は錬金術の天才だ。この短時間で炭素の同素体を作るなんて、凡人のできることじゃない。このままいけば、ダイヤモンドを生み出せるかもしれない」
「……カーボンナノチューブ作ってないんだけど」
必死に堪えていたはずの涙が、花園の目からはらはらと流れ出る。
何にも大丈夫じゃなかった。花園の心めちゃくちゃに抉ってた。もうここまで来ると古橋が花園のことを嫌いなのではないかとさえ思えてくる。
お前やってくれたな、という目で古橋を見ると、古橋は俺にも人を慰められた、と満足感に満ちた顔でガッツポーズをしていた。側から見れば女子を泣かせて喜んでる変態にしか見えないからな。
「あれ、できたの?」
葬式状態のキッチンに、今までリビングでマリオカートをやっていた原が顔を出す。この状態に原なんて、火に油を注ぐのと同じだ。
今すぐコントローラーを奪って原のカートを火の海に落としてやろうかとも思った。もはや物理でもいいんじゃないかとすら思えてくる。
原は台所の中央に不自然に転がる黒い塊を見て、原は一度動きを止めた。それから、口元に満面の笑みを浮かべる。
「…え、これすっごく美味しそうじゃん!山崎食べなよ、最近流行ってるし、こういう健康志向!」
「……活性炭じゃないんだけど」
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漫画・声優・アニメ・ゲーム大好きリカント(夜李)(プロフ) - 面白いです!更新待ってます! (2020年10月20日 18時) (レス) id: 7e6458e2b5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずりは(プロフ) - 征羅さん» ありがとうございます。面白いと思っていただけるように意識してるので、そう言っていただけるのはとても嬉しいです。返信遅くなってしまってごめんなさい、これからもよろしくお願いします。 (2020年1月26日 19時) (レス) id: 718a0c6063 (このIDを非表示/違反報告)
征羅(プロフ) - すごく面白いです。毎回爆笑してます。あからさまに笑いを狙ってないような感じが好きです。今まで俺が見た小説とは違う面白さで、すっかりハマってしまいました!更新頑張ってください。 (2019年10月1日 0時) (レス) id: 44f8e3471a (このIDを非表示/違反報告)
ゆずりは(プロフ) - みかんさん» ありがとうございます。受験生なので更新が遅くなってしまいますが、頑張りたいと思います。 (2019年9月23日 20時) (レス) id: 718a0c6063 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - 面白いですら楽しく読ませてもらってます。更新頑張ってください! (2019年8月20日 16時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆずりは | 作成日時:2019年5月4日 15時