戻ったって変わらないのに (ページ5)

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スカビオサページ5

二日後、北山の葬式は静かに行われた。

藤ヶ谷は不満の顔をするわけでも無く、ただ無表情だった。その表情からは誰も心情が読み取れないほど虚無感にあふれている。

僧侶と言われているものは、ぽつぽつとお経を立てる。メンバーの表情は泣いている者もいれば、俯いている者、前を向いている者とそれぞれの表情になっていた。

空気は重く。まさに正しいお葬式と言っていいほど静かだった。その時間はとても長く。まるで止まってしまったビデオのように。

北山の死体が入っている棺はとてもシンプルな白で包まれており、その周りには彼の象徴でもある紅い花が飾られていた。花に囲まれている中心に輝かしいほどの、いつもの彼の笑顔の写真が置いてあった。

藤ヶ谷の視線は、まるで人を蔑む様に冷たく。北山が入っている棺に向けられていた。お経が終わったのか僧侶は静かに立ち上がり、みんなが座っている方へ向く。

　僧「お経が終わりましたので、死体を燃やす作業に進みます。皆さんは炉前室に移動してください」

みんなは一斉に立ち上がりふらふらと歩いてゆく。ただ、一人だけ動かないものがいた。

　 Y「……ほら。太輔、行くよ」

それは藤ヶ谷太輔だった。彼はただ微動差にせず、まっすぐ棺の方を見つめていた。

　 F「……ちょっと一人にしてほしい」

　 Y「……分かった。けどいくら願ってもみつは帰ってこないからな」

その言葉は冷たかった。だが、ほんのり温かいものだった。けど藤ヶ谷には史上最悪な言葉で、少し目に鋭さが加わった。横尾の気遣いを無視をして、藤ヶ谷は棺の元へ歩み寄る。

そんな藤ヶ谷が心配で最後まで見守っていた横尾。けれど数分後その姿は消えていた。藤ヶ谷は一人っきりになる。

　 F「やっと、二人っきりだね。」

ぽつりと呟いたその言葉は、誰にも返されることなく空気のように消えた。藤ヶ谷はそっと物音を立てないように棺の小窓を開ける。

北山の顔が露になった。その顔はただ、静かで押しつぶされた人間と思えないほどとても綺麗だった。

唇は青紫に変色していて下唇は少しかさついてた。目は堅く閉じており、まつ毛の長さがよく分かる。

肌はしなやかで三十代と思わせないぐらい皺は無かった。いつも毛先を遊ばせているがいつもよりは落ち着いている。けれど少し跳ねている髪の毛を藤ヶ谷はそっと撫でた。

その表情は柔らかく、微笑んでいるような。今すぐにも泣きそうようで、落ち着いていた。