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アヤメ ページ4

そんなうじうじしている藤ヶ谷太輔の元に一本の着信音が鳴り響く。強い照明のような淡くて眩しい太陽の光が差し込む中。
 
早朝でまだベットの上で寝転ぶ彼の耳に届く。まだ頭が働いていない状態で目をしぱしぱさせながら渋々携帯を取る。

  F「……もしもし、」

電話の先の自分は沈黙を貫いたままだった。「なんだ?いたずら電話か?」と思って一度耳からスマホを離して誰からの電話か目で確認し、その疑いはすぐに晴れて行った。眩しい朝から不安な空気が漂う。

  F「……もしもーし?どうしたーわたるー」

呑気な藤ヶ谷は淡々と電話相手の横尾に声をかる。電話先から唾が飲む音が聞こえ、息を吸った。

 

  Y「……――みつがっ……死んだ……」

 

泣きそうで弱々しいかすれた声で言われた。だがそれでも藤ヶ谷にとっては衝撃過ぎて息が止まっていた。受け止められない気持ちと後悔と悲しみ。他にも色んな感情が飛び交う。

相手は藤ヶ谷が衝撃を受けていると分かって涙を流していた。横尾が泣いているのに対して藤ヶ谷に涙は無かった。

聞こえるのは彼の心臓の音だけが、静かに荒々しく響いていた。






北山宏光は昨夜、帰路についている所に飲酒運転をしていたトラックが、電柱にぶつかりスリップしたまま、たまたま北山のいる元へ向かってしまった。

これは紛れもなく事故だった。北山は強くコンクリートとトラックに押しつぶされて、頭部と体全体が打ち付けられ即死だった。トラックの運転手は軽傷で間もなく逮捕された。





そんな事を淡々という警察の言葉なんて聞きたくないかのように藤ヶ谷は耳を塞いでいた。

メンバーのみんなも各々の考えを巡らせているのか、みな俯いたままだった。お葬式は二日後に行われるらしい。メンバーと家族のみの出席だった。なんと寂しいお葬式かと思うが、これは北山のお願いだと家族は言った。



そう。北山はこのことが分かっていたかのように遺言書が残されていた。



その内容はあっさりしてて、誰にも弱みを見せない北山らしい遺言書だった。藤ヶ谷はその遺言書は見なかった。

メンバーがその遺言書を見て涙を流しているのに藤ヶ谷は、それを拒否しているようにそっぽを向いていた。

その姿はまるでまだ北山は帰ってくるのではないかと期待しているようにも見えた。

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作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時

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