23 翡翠と海 ページ24
思い残すことなど考えれば尽きないほどある。この調子でいけば再生能力もいつかは無くなりこの体は塵のように跡形もなく朽ちるだろう。その前にしたいこともしなければならないこともたくさんあるのだ。
ザサは尚もじっとこちらを見つめている。
「俺じゃあいつを幸せにはできない」
心に深く突き刺さる言葉だった。ザサは苦しげに言葉を紡ぐ。できないとわかっていることを口に出すだけでそれがもう実現不可能だと決定するようなものだ。プライドなど等に捨てたのだろう。俺はどうしてこいつに頭を下げられているんだ。こいつは俺とAを引きずって逃げてきてくれたというのに。
「……俺にはそんな資格がない」
「お前じゃなきゃあいつは笑わねぇんだよ！お前なんだよ！あいつが求めてんのは！」
本心からの叫びだった。
ザサもAが心から好きなんだと痛感する。
大切だから守りたい。
大切だから笑っていてほしい。
対立があまりにも苦しすぎた。
「……わからねぇか」
「わからないわけないだろうが」
残念ながら理性なんぞ残っていない。今自分を突き動かすのは感性とザサの言葉だ。
立ち上がる。
溜息をついた。
翡翠の目がニヤリと笑った。作戦通り、という顔だ。
「まんまと乗ってくれてやんの」
「フン、乗ってやったんだよ、お前があまりにも悲痛に叫ぶから」
「へぇ、神田こそその海みたいな暗い目涙で潤んでたくせに」
「んだと？」
二人同時に笑っていた。
アルマが生きていたらこんな感じだっただろうか。
「なぁ神田」
「なんだ」
「俺たち案外似てるのかもな」
「似てたまるか」
「お前空気読めよ！」
走るうちに村はもうそこだった。
教団からはそう遠くなかったらしい。
こんなにも近く感じたのは何のせいなのか、それを考えることすらどうでもよくなる。
「我らが姫君を驚かせに行こうぜ」
「……臭いセリフだな」
「ちょっと言ってみたかっただけ」
俺たちは似ているんじゃなくて、合うんだろう。こんな相棒も悪くないかもしれない。間違っても正しい道を示してくれそうだ。
「行くか」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 32人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
湫(プロフ) - 神田ユエさん» こちらこそ拙い作品に最後までお付き合いいただきありがとうございました！応援メッセージもとても嬉しかったです、気が向いたらまた番外編を更新するかもしれませんのでよろしくお願いします。 (2016年7月23日 13時) (
レス) id: e79bcec08f (このIDを非表示/違反報告)
神田ユエ - 感動をありがとうございました！ (2016年7月23日 11時) (レス) id: 1e0d488be5 (このIDを非表示/違反報告)
湫(プロフ) - アイアさん» お返事遅れてすみません。更新は相変わらずノロマですが見放さず最後まで見届けていただけると幸いです。 (2016年5月24日 16時) (レス) id: e79bcec08f (このIDを非表示/違反報告)
アイア - 更新、頑張ってくださいね！無理はなさらないよう体調も崩さないように気をつけてください。お待ちしております (2016年5月5日 23時) (レス) id: ef2d1622aa (このIDを非表示/違反報告)
湫(プロフ) - 名無しさん» 更新は不定期になりがちで申し訳ないです。月に一度は必ず更新するので気長に待っていただけると幸いです (2016年4月25日 19時) (レス) id: e79bcec08f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：湫 | 作成日時：2016年3月23日 9時
