36話 ページ36
「…時透君は本当に、Aのことが好きなんですね。」
縁側に腰掛けて蒼天を眺めるしのぶがそう口にした。
最初こそ戸惑いの表情を見せた無一郎だったが、しのぶのその言葉に顔を赤らめて、何か愛しい者でも思うような優しい目付きで笑った。
「…はい。生まれて初めて、この手で守りたいって思った人なんです。」
姉妹達の話をしている時の幸せそうな顔。
気恥しそうに髪の毛を弄る姿。
患者の手当をする時の真剣な眼差し。
蝶々に逃げられてしまった時の不貞腐れた表情。
そして、あの優しい笑顔。
全部全部、この手で、僕自身の手で守りたい。
あわよくば、その華奢な身体を抱き締めたい。
君に好きだと、伝えたい。
無一郎は恥じらうように、でも真っ直ぐな眼差しをしてしのぶを見る。
「僕、本当に。本当にあの子のことが、Aのことが好きなんです。
この気持ちは誰にも負けないと胸を張って言えます。」
しのぶはどこか困ったように眉を下げた。
そして同時に、その言葉に安堵の表情を見せた。
「そう、なんですね。」
しのぶはそっとその長い睫毛で瞼を縁取るように目を閉じて、蚊の鳴くような声で呟いた。
「…ありがとう、ございます。」
「…え？」
本当に本当に小さな声。
でも、確かに無一郎の耳にその声はきちんと届いていた。
しのぶはそろそろお暇しますね、と言って何事もなかったかのように立ち上がると、羽織りの裾を靡かせながら時透邸を後にしようとした。
「ま、待ってください！」
反射的にしのぶのことを呼び止める無一郎。
しのぶは何ですか？と尋ねると無一郎に振り返った。
「今……。」
「ふふ、ただの独り言ですよ。」
しのぶは門の取っ手に手を掛けると、優しく微笑んでこう発した。
「包帯等がまた足りなくなったらいつでも知らせてくださいね。
それでは失礼します。」
ぽかんとしている無一郎を一人残して、しのぶはその場を後にした。
「(僕の気持ちを、認めて貰え……たの、かな？)」
＿＿先程の言葉は、そう捉えてしまっても良いのだろうか。
もし、もしそうならば＿＿＿＿＿。
結局真偽はわからぬまま、ほんの僅かの薬品の匂いを含んだ包帯だけがぽつりと縁側に置かれたままだった。
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ピクルス - 号泣 (2020年9月9日 14時) (
レス) id: 2a7c012e78 (このIDを非表示/違反報告)
ピクルス - うわぁぁぁぁぁぁぁあん！無一郎くん死なないでぇぇぁえぇぇぇぁあぇぁあええ (2020年9月9日 14時) (レス) id: 2a7c012e78 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - わたぬきくん。さん» お祝いのお言葉ありがとうございます！そのように言って頂けて嬉しい限りでございます！最後までお付き合いくださりありがとうございました！ (2020年8月30日 10時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
わたぬきくん。(プロフ) - テスト期間終わってきたら完結してた…ああもう号泣です！完結おめでとうございます！(泣) (2020年8月29日 14時) (レス) id: 9e97a6dad3 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - リムさん» お祝いのお言葉と応援のお言葉ありがとうございます！そのように言って頂けて光栄の極みでございます…！本当に感謝の限りです。最後までお付き合いくださりありがとうございました！ (2020年8月27日 0時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白霞
| 作成日時：2020年7月23日 20時
