72: 雪切の世界 ページ33
俺は、あの人を困らせたいわけじゃない。
やっと自分のしたいことが見つけられて、ただ、嬉しかったんだ。
父さん、母さん、そして___。
ごめんなさい。
許されないってこと、わかってる。けど…
路地裏で寝転がって、誰とも知らない男に抱かれて捨てられるよりも、
俺はあの人のそばにいたい。
一度背を向けられた時、胸に穴が空いたような感覚になった。
…でも、戻ってきてくれるってどこかで思ってた。
あの人は、戻ってきた。
生きていてほしいって言ってくれた。
使い捨てじゃない。
こんな俺のこと、たった一人って、言ってくれた。
俺、寂雷さんのこと、___
「__雪切君?」
「…へ?は、ハイ…。」
病室の窓から外の風景を見ていた。ぼうっとしていたらしい。
今、なんかすごく恥ずかしいこと考えた気がする…。
それが何なのかはっきりしないが、その影響か顔が熱い。
「…大丈夫かい?顔が赤いようだけど。」
「だ、だい、大丈夫です…。」
顔を近づけられ、後ろに半歩下がる。本当に心配しているらしいが雪切としてはむしろ離れてほしかった。
「忘れ物は無いかい?」
「はい。」
無事に退院できたわけだが。元々大した荷物もなかったうえ見舞いに来る人は特定の人のみ。忘れ物はむしろ、そそっかしい一二三がしていないか心配である。
「うん。それじゃあ、行こうか。」
頷いて微笑む寂雷を追う。
数人の医師が_寂雷に_何かしらの声をかけこちらに微笑む。雪切は何だかよくわからず、とりあえず小さくお辞儀をしておいた。
「寂雷さん。」
「えっ、どうしたんだい?」
慌てている寂雷に首をかしげる。どうして赤面しているのか。
不思議に思ったが雪切は深く詮索しないことにした。
「いえ…なんでもない、です。」
「そうかい?」
エレベーター前ではさっきとは別の医師が出待ちしていた。雪切の担当医である。
「雪切君。」
寂雷に肩に手を置かれ、雪切はその担当医に向かって丁寧にお辞儀をした。
「ありがとう、ございました。」
お大事に。と微笑みを返され、雪切は心底安心した。
寂雷と並ぶとやはり視線が痛い。これにはいつまでも慣れないだろう。
先程、ありがとう。なんて言い慣れない言葉を使ったからだろうか。
ああ、また、心臓煩いな…。
誤魔化すように寂雷の方を見ると、目が合う。
「あ…いや、あの…すみません。」
「ふふ、一二三の言っていた通りだね。」
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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時