【成宮】極楽蝶花【鳴】 (ページ21)

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俯いてしまったから
どんな顔で彼女が近寄って来たか解らない。

どんな顔をするのか、皆目検討もつかない。

鳴は音と八方目のみで、彼女が隣に座ったのを察した。

髪が腰まであった一年時。
その時なら、風に靡いた髪が、鳴の顔を掠め
香りも楽しめたかも知れない。

でも今は、肩より少し長いくらいで
座る距離からして、髪が掠める事は皆無だろう。

どちら共、口を開く事なく
ただ時間だけが流れる。

それは不快なほど、ゆっくりに･･････。

きっと十分程度に感じた時間は、一分にも至らないだろう。

それを申し訳無く思った鳴は「寒いでしょ? 」
俯いたまま声を掛けた。

でも、架けてあげられる上着は持ってない。

走れば暖かくなると踏んで
赤いジャンパーは置いてきてしまったから。

「大丈夫だよ。コート着てるし･･････
成宮鳴くんの方が寒いんじゃない? 」

初めて呼ばれた名前は、フルネームだった。

成宮でも、鳴でもなく "成宮鳴" 。

凄く距離感を感じた瞬間だった。

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