5.ほんの少しの平穏 ページ5
「Aちゃん、ここの記号ってこの使い方であってますか?」
「えっと...うん、合ってるよ」
「ありがとうございます」
わたしは最近、図書室で知り合った七海春歌ちゃんと一緒にそれぞれの曲を作るのが日課になっている。今日は晴れてるから外にあるテーブルでしているけど、いつもは図書室だ。鼻孔をかすめる花の香りに思いっきり背伸びをすると、目の前に座って一生懸命楽譜に音符を書き込む春歌ちゃんが目に入った。
明るい髪の色に琥珀色の瞳。お人形さんみたいに整った顔。礼儀正しい性格。全て兼ね揃えたかのような春歌ちゃんをわたしは会って数日で大好きになってしまった。それに春歌ちゃんはトモちゃんとも仲が良いらしい。世間って狭い。
春歌ちゃんに負けないようにわたしも頑張ろうとペンを握った瞬間、今度は中庭に響き渡った爽やかな声に二人同時にびくりと肩を震わせる。顔を見合わせて笑ってから声のした方に顔を向ければ、最近よく見る赤い髪の男の子が笑顔でこちらに走ってきていた。確か、春歌ちゃんとペアを組んでいる一十木音也くんだったと思う。
「七海、やっぱりここにいたんだね!それにAちゃんもいる〜!」
「一十木くん、どうしたんですか?」
「ちょっとあの歌聴いてほしくてさ!Aちゃん、少し七海借りていい?」
「え、うん。全然そんなの気にしなくていいよ!」
お互い頑張ろうね、と。お礼を言ってくる二人にそう言えば、眩しいほどの笑顔で頷いたのを見て心が少しほっこりとした。しかし、少し沈黙したあと、突然あっと大きな声を上げた一十木くんに驚いて顔を上げれば、彼は何かを思い出したようなスッキリした顔をしている。どうしたんだろうと首を傾げていると、一十木くんはそれからまたニコっと笑って口を開いた。
「そういえば、Aちゃんのペアって、翔でしょ?」
「うん、そうだけど...」
「さっき、Aちゃんのこと探してたよ」
「えっ!?」
予想外の言葉に驚いているわたしを見て、微笑みながら「会えるといいね」と言った一十木くんが手を振りながら春歌ちゃんと噴水の方向に歩いていく。
でも探しに行って行き違いになると嫌だしな、とモヤモヤした気持ちを自己完結してもう一度楽譜に視線を戻したとき、さっきまで春歌ちゃんがいた席に何故か不貞腐れたように座っている来栖くんに双眸を見開いた。
「く、来栖くん...?」
「音也たちに負けてらんねぇ。オレらも向こうで練習しようぜ」
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環(プロフ) - ラビットハッチさん» コメントありがとうございます! 本当ですか! とっても嬉しいです〜! こちらこそ、ありがとうございます!! 励みになります! (2016年12月19日 3時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
ラビットハッチ(プロフ) - わー!ずっと待ってた甲斐がありました!すごい環さんの作風が大好きで、更新されるのを今か今かと待ってました!更新ありがとうございます! (2016年12月19日 1時) (レス) id: 7cb82700e8 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 翔くん大好き!!さん» コメントありがとうございます^ ^ 励みになります! 更新頑張りますね!! (2015年7月25日 10時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
翔くん大好き!! - 面白くてこの作品大好きです!!更新頑張ってください!! (2015年7月25日 9時) (レス) id: dca90fa2b6 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 夢さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! 更新頑張ります! (2015年7月14日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年3月10日 0時