28.もやもや ページ28
最近、黄瀬くんの様子が少し可笑しい。なにかを考え込んでいるみたいに見える。
部活前、廊下ですれ違いざまに見た黄瀬くんは、何故かむっとしたように口をへの字に曲げていた。それから何度か見かけたときも、心ここに在らず、といった感じだった。なにか心配事でもあるのかな。本人に訊いてみようか。でも、どこまで踏み込んでいいのかわからないし、わたしがどうにかできる問題じゃないかもしれない。それに、正直バレンタイン前日に余計なことをして嫌われたくない。
トボトボと廊下を歩きながらそんなことを考えていたせいで、明日のことを思い出してしまい、まるで高校入試当日の試験会場にいるときのように心臓がバクバクと大きな音で鳴り出した。冷や汗も僅かながらにも出てくる。
幸いにも、明日は放課後黄瀬くんと帰ることになっている。渡すならその時だ。絶対に渡して、あわよくば想いを伝えられたら...なんて。
「ーーーいやいやいや、無理でしょ」
黄瀬くんはそんな人ではないとわかっているが、脳裏に浮かんだドン引きしたその整った顔に顔が引きつる。告白なんて、そんなのハードルが高すぎる。第一、成功したシチュエーションが想像できない。無理だ、ほんとうに。鶏が白鳥と結ばれると同じくらいあり得ない。
「どうしたんスか、Aっち」
「あ、え...、黄瀬くん」
「こんなところでなにして...って、どうしたんスか!?顔、真っ青じゃん、大丈夫?」
大丈夫、と口を動かすが声は出なかった。すると、ますます心配そうに覗き込んでくる黄瀬くんに自分の頰がどんどん赤く染まっていくのがわかる。
「え、あっ、ごめん」
それに気付いたらしい黄瀬くんが弾けるように顔を離すと、あからさまに目を逸らしてから口許を手で覆った。それから、暫くしてこちら見ると、一瞬何か考え込んでから小さく口を開いて、
「あのさ、Aっち...」
「ーーーおーい、黄瀬!早くしろよ!」
「あ、ごめん!今行くっス!」
すると、突然後ろから聞こえてきた声に、開きかけてきた口を一回閉じてから、少し声のした方を向いて返事をした黄瀬くん。あれ、今なにか言おうとしてた...?
「ごめん、Aっち!また部活で!」
爽やかな笑顔でそう言った黄瀬くんに笑い返しながら、わたしは少しモヤモヤする気持ちを無理矢理奥に押し込んだ。
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環(プロフ) - たくっちさん» コメントありがとうございます〜!! そう言っていただけると嬉しいです! ほんとにありがとうございます!! (2015年12月29日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
たくっち - めっちゃ良い話じゃないですか。感動しました!これからも感動するような作品よろしくお願いします。応援してます! (2015年12月27日 18時) (レス) id: 14821b434b (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 朱いメダカ@ペンタブ禁止令さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! ありがとうございます! (2015年5月12日 0時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
朱いメダカ@ペンタブ禁止令(プロフ) - 今日読み始めて一気に最後まで読んでしまいました!!凄くキュンキュンして泣けて…凄く面白かったです!! (2015年5月11日 23時) (レス) id: edbb06b586 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - にょんさん» コメントありがとうございます^ ^ ほんとですか!? すっごく嬉しいです、ありがとうございます!! (2015年5月7日 23時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年2月15日 11時