22.諦めてない ページ22
「風邪、引いちゃうよ」
ベンチでボーッとしているとき、いきなり誰かに大きめのパーカーを肩にかけられてハッとする。ゆっくりと振り向けば、優しく微笑む音也くんがいた。
「...音也くん」
「あはは！雨で濡れちゃってるね。ちょっと向こうで雨宿りしよっか」
ーーー
「嶺ちゃん、結局辞めなかったみたいだよ。...良かった〜」
「...そうだね」
屋根があるところがなかなかなくて、結局寮の玄関の前で二人で少し話すことにした。...話すって言っても、さっきから音也くんが言う言葉にわたしが相づちを打つって感じだけど。
でも、わたしのことを励まそうとしてくれてるのが伝わってきて、なんだか心があったかくなる。
「俺さ、嶺ちゃんによく聞かれてたんだよね。Aちゃんは元気にしてる？とか、みんなと馴染めてる？とか他にもたくさん」
「...え？」
び、びっくりした。いきなり嶺ちゃんの話をされたことよりも、音也くんの言った言葉に驚いた。音也くんって、能天気なようでちゃんと人のこと見てるんだなー...なんて、感心していると、ふいにこちらを向いてニコっと笑った。
「だからさ、作曲家交換したのって、別にAちゃんが要らないからとかじゃないと思うんだ」
「...ううん、違うの。そんなわけないよ」
後輩にこんなこと言わせるなんてわたし先輩失格だな。その笑顔になんだか申し訳なさが募って泣きそうになる。...ごめんね、音也くん。
「...Aちゃん」
「みんなに迷惑かけちゃうからもっと頑張らなきゃ。なるべく春ちゃんの曲に似せなきゃ。春ちゃんに教えてもらわなきゃって思うのに。なのにわたし、プライドが邪魔してなかなか聞きにいけな...」
「Aちゃん！」
─── え？
目から涙が零れ落ちるとほぼ同時に、いきなり視界が真っ暗になった。混乱していると、背中にまわされた腕の力が強くなって。...あれ、わたし今音也くんに抱きしめられてる？
「Aちゃんの曲だってすごく良いのに、似せる必要なんてないよ！」
「お、音也くん？」
「諦めちゃだめだ！」
...諦めてなんかない。ただ、みんなにとって最善の方法を選んでるだけで諦めてなんか...。
両肩を掴んで、目を合わせながらそう言い聞かせるように言ってくる後輩に、わたしは言葉を返すことも、涙を止めることも出来なかった。
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ユリア(プロフ) - 環様、お話読ませていただきました！主人公と嶺ちゃんの関係性がどんどん変わっていってどうなるか分からず、ドキドキしました❤これからも応援してます(^▽^)/ (2023年3月20日 18時) (
レス) @page29 id: 4dc59746f6 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 朝倉ひなさん» 朝倉ひなさん！ そうだったんですね......（ ; ; ） そんな言葉を言ってくれる人が身近にいるなんて羨ましいです！！（笑） 心のこもったあたたかいコメントありがとうございます^ ^ とても幸せな気持ちになりました！！ (2017年10月16日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
朝倉ひな - だから、嶺ちゃんに、君が必要、と言われた夢主ちゃんは、そこに存在意義を感じただろうし、それが何よりも幸せだと思います。こんなにも共感でき、メッセージ性のある夢小説を読むのは久しぶりです。これからも頑張ってください！ (2017年10月16日 21時) (レス) id: 35a6a0831a (このIDを非表示/違反報告)
朝倉ひな - 泣けちゃいました。私もすごく似たような立場だったので。ずっと私は、必要とされていないと思ってたんです。でも、ある人に、顔とか性格とかも好きだけど、お前を好きになった理由の一番はお前だったから、と言われて、泣きそうになりました。 (2017年10月16日 21時) (レス) id: 35a6a0831a (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - コメントありがとうございます！ そして返信遅くなってすみません！ 私も努力家の女の子の方が応援したくなるし、素敵だなって思います、、！！ 今回は春ちゃんが悪者っぽくなってしまいましたが、次に機会があれば春ちゃんの良い場面も書いていけたらと思ってます！ (2017年10月8日 23時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：環 | 作成日時：2014年4月25日 18時
