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195.あなたの匂い ページ45

 彼が夢から覚める時、

 眩しいほどに世界が明るくなって、

 気がつくと黄泉の国に戻っていた。

 私は涙を自分で拭いながらひたすらに駆けた。


 会ってしまえばこうなるって分かっていた。

 欲が出てしまうことなんて安易に想像できた。

 喉が焼けるように熱くて…

 私は口元を手で押さえて叫んでいた。


「杏寿郎…!杏寿郎…!!杏寿郎…」


 私は自分が思っているよりも弱虫で泣き虫みたい。
 
 あなたの匂いが私の鼻にこびりついて離れない。

 それはまるで彼がすぐそばにいるようで

 余計に私の心を抉った。



 どれくらい走ったのだろう。

 無我夢中で野原を駆けて、

 無意識のうちにあの桔梗の咲く草原に辿り着いた。


 一本の大きな木の下にもたれかかると、

 走り疲れたからか、泣き疲れたからか、

 いつの間にか眠りに落ちてしまった。





「Aさん」

 女性の声で目が覚める。誰かが私を呼んでいる。

 重い瞼を開けると、そこには写真で見たことのある

 品の良い女性が立っていた。


「あなたは…瑠火様…?」

 女性は私に歩み寄ると、白い腕で優しく抱きしめた。

「はい。私は杏寿郎の母、瑠火です。

 Aさん、あなたのことは存じております。

 煉獄家を支えてくれてありがとう。」

「いえ、私は…」

 瑠火様は優しく微笑むと、私の頭を撫でた。

「杏寿郎の心はいつもあなたでいっぱいみたい。

 私はあの子の母親ですから、分かります。」


「私は…杏寿郎さんの人生を

 通りすぎるべき女だったかもしれません。

 それなのに…いつまでも居座りたいだなんて図々しいことを

 考えてしまっています…」


「良いのです。杏寿郎はあなたのお陰で愛を知れたのですよ。

 それに…もう、あなたは私の"娘"です。

 そんなことを言ってはいけません。」


 射抜かれそうな瞳に私は身動きが取れなくなった。

 瑠火様は私の手をとると、涙を浮かべて微笑んだ。


「実は迎えに行かなければなりません。

 こんなにも早く…」


「迎え…?」


 迎え?誰を…?まさか…


「Aさんはもう湖に行くことはできないと、
 
 先程、あなたのお祖父様から聞きました。

 我が息子を助けるために行かれたことも。」


 待って…早いよ…そんな…嫌だ…


「杏寿郎は下弦の壱と戦った後に

 突然現れた上弦の参と戦い、

 無限列車の乗客全員を守り切りました。



 自分の命を懸けて…」

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 小鈴さん» 感想ありがとうございます!最後までお読みいただき光栄です。物語は読んでもらってこそ生きるものだと私は思うので、この作品を見つけてくださり、そして読んでくださったこと、本当にありがとうございます! (2022年11月15日 18時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
小鈴(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございました。途中からずっと、涙なしでは見られませんでした。この作品の主人公と煉獄さんに出会えて本当に良かったです! (2022年11月14日 22時) (レス) @page50 id: 97399e389e (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» 最後までお付き合いいただき、感謝申し上げます。主人公に感情移入し、物語に入ってもらってこそ、この小説の醍醐味と思い作っていたので、大変光栄です!あたたかいコメントにいつも励まされておりました。ありがとうございました! (2022年7月16日 7時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
misakimi(プロフ) - 読了が遅くなりました。お疲れ様でした。長らく愉しませて頂きました。現し世でなくても、ハッピーエンドとは!こういう纏め方もあるのかと感心です。彼女の気持ちに入り込んでいたため、逢いたいけど早いよと涙しました。 (2022年7月15日 16時) (レス) @page50 id: cb1d4026ae (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます!起承転結の「転」は恐らく読者様の予想を超えるものになってしまったかもしれません。しかし、美桜さんのように嬉しいお言葉をいただけると、作者として本当に幸せです♡最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (2022年7月10日 15時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年6月12日 13時

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