191.あなたの腕の中 ページ41
*ここからは主人公視点に戻ります。
思いもしなかった。
まさか自分が鬼になるなんて。
こんなにも早くお別れが来るなんて…
◇ ◇ ◇
「ねえ、杏寿郎。私たちは戦いの前になると、
いつもこうしてゆびきりげんまんをしたね。」
「そうだな。」
「これが最後のゆびきりげんまん。」
絡めた小指の先から、ぼろぼろと自分の指が消えていく。
もう感覚はないに等しい。
「後はよろしくお願いします。
私のできなかった分まで、鬼から人を守ってね。
それから…」
さようならをしないと…
そう思うと言葉が喉に引っかかってしまう。
最期は笑顔で…杏寿郎が悲しまないように。
「恋人にしてくれて、ありがとう。
たくさん思い出をくれて、ありがとう。
愛してくれて…ありがとう。
あなたはあなたらしく、
心を燃やして、まっすぐに生きて。幸せに…」
幸せに"今"を生きて。
私に捉われることなく、前を向いて生きて。
最後まで言えなかった。もう言葉を発することはできない。
愛しい彼の姿もこの目で見れない。
すると、あたたかいぬくもりが私を包んだ。
心地よくて、安心する。
薄れゆく感覚の中で、ひとつだけ分かるものがあった。
杏寿郎の匂いがした。
大好きな杏寿郎の匂いがしたの。
最期が杏寿郎の腕の中で私は幸せだよ。
置いていってごめんね。
あなたに出会えて私の人生は素敵なものに変わった。
ありがとう。
舞い散る桜の中、私は風になって消えた。
◇ ◇ ◇
柔らかな日差しで目が覚める。
そこは草花が生い茂る草原だった。
近くを流れる川のせせらぎが穏やかな気分にしてくれる。
「A」
身体を起こして、声のする方を向くと、
そこには亡くなった祖父がいた。
「おじいちゃん…!」
その隣には…
「A、久しぶりだね。
でも、こちらに来るのは早すぎ。」
そう言って微笑む元婚約者の姿があった。
二人の姿を捉えた私の視界は涙でぼやけていく。
「うん。うん…会いたかった。」
私は二人に駆け寄って思い切り抱きしめた。
おじいちゃんたちの話によると、
ここはいわゆる"黄泉の国"と呼ばれる場所だという。
とても穏やかで、正に"天国"というに相応しい。
「A、お前はよくやった。
そのひと言で、全てが報われた気がした。
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狐姫(プロフ) - 小鈴さん» 感想ありがとうございます!最後までお読みいただき光栄です。物語は読んでもらってこそ生きるものだと私は思うので、この作品を見つけてくださり、そして読んでくださったこと、本当にありがとうございます! (2022年11月15日 18時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
小鈴(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございました。途中からずっと、涙なしでは見られませんでした。この作品の主人公と煉獄さんに出会えて本当に良かったです! (2022年11月14日 22時) (レス) @page50 id: 97399e389e (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» 最後までお付き合いいただき、感謝申し上げます。主人公に感情移入し、物語に入ってもらってこそ、この小説の醍醐味と思い作っていたので、大変光栄です!あたたかいコメントにいつも励まされておりました。ありがとうございました! (2022年7月16日 7時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
misakimi(プロフ) - 読了が遅くなりました。お疲れ様でした。長らく愉しませて頂きました。現し世でなくても、ハッピーエンドとは!こういう纏め方もあるのかと感心です。彼女の気持ちに入り込んでいたため、逢いたいけど早いよと涙しました。 (2022年7月15日 16時) (レス) @page50 id: cb1d4026ae (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます!起承転結の「転」は恐らく読者様の予想を超えるものになってしまったかもしれません。しかし、美桜さんのように嬉しいお言葉をいただけると、作者として本当に幸せです♡最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (2022年7月10日 15時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2022年6月12日 13時