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192.お気に入りの場所 ページ42

 黄泉の国へ来てからしばらく

 こちらの生活にも次第に慣れてきた。

 生きている間は死後のことを恐れていたが、

 ここは本当に居心地の良い場所だ。


 けれど、ぽっかりと空いた心の穴が

 優しい風さえも痛むように感じる。


 その虚無感の理由を、私は何となく分かっていた。

 心残りがあるから。

 叶えることのできなかった願った未来があるから。

 

 そんなモヤモヤとした気持ちを晴らしたい時、

 私は決まって行く場所があった。


 そこは青紫色の桔梗が咲き誇る草原で、

 一本の大きな木が(そび)え立っている。


 何処となく、杏寿郎と結婚の約束をした

 あの場所に似ている。

 だから私はこの場所がお気に入りになった。



 大きく伸びをすると、

 風に私の真白なワンピースの裾が揺れた。


 草原の上に腰を下ろすと、

 白詰草に桔梗の花を絡めて花冠を作り始めた。


 昔、お母さんとお姉ちゃんとよく作ったなあ。

 みんな、元気にしているかな…


 夢中になって花冠を作っていると、

 不意に名前を呼ばれた。


「A」


 聞き覚えのある声に私はあたりをきょろきょろと見回した。

 瞳に映るのは大好きな人の姿だった。


 杏寿郎…!


 思わず顔が綻んでしまう。


 杏寿郎が私の方へ駆け寄ると、

 私は隣に座るように彼の腕を引いた。

 彼はその場に腰を下ろすと、

「綺麗な花冠だな!とても上手にできている!」

 と、私の手元を見ながら褒めてくれた。


 私は照れ臭くて微笑んだ。


「嬉しい。

 杏寿郎に褒められると、何でもできる気がしちゃう。」


 隣に座る彼を見ると、黙って微笑んだまま何も言わない。


「杏寿郎?」


 すると突然突風が吹いて、

 杏寿郎と見えていたものは

 ひらひらと散る桜の花びらに変わってしまった。




 そうか…私の見たいと思う幻だったのね。

 
 杏寿郎に触れたい。声が聞きたい。

 どうしようもなく胸が苦しくなった。


 なんだ…天国にいたって、この恋の痛みは変わらないのね。



 私は再び花冠を作り始めた。

 すると、遠くの方から祖父が慌てた様子で駆けてきて、

 口を開いた。



「A!大変だ!杏寿郎くんが…」


 祖父の言葉に私は酷く動揺し、

 持っていた花冠を地面に落としてしまった。


「今、行く…!」


 私は涙を堪えて走り始めた。

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 小鈴さん» 感想ありがとうございます!最後までお読みいただき光栄です。物語は読んでもらってこそ生きるものだと私は思うので、この作品を見つけてくださり、そして読んでくださったこと、本当にありがとうございます! (11月15日 18時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
小鈴(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございました。途中からずっと、涙なしでは見られませんでした。この作品の主人公と煉獄さんに出会えて本当に良かったです! (11月14日 22時) (レス) @page50 id: 97399e389e (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» 最後までお付き合いいただき、感謝申し上げます。主人公に感情移入し、物語に入ってもらってこそ、この小説の醍醐味と思い作っていたので、大変光栄です!あたたかいコメントにいつも励まされておりました。ありがとうございました! (7月16日 7時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
misakimi(プロフ) - 読了が遅くなりました。お疲れ様でした。長らく愉しませて頂きました。現し世でなくても、ハッピーエンドとは!こういう纏め方もあるのかと感心です。彼女の気持ちに入り込んでいたため、逢いたいけど早いよと涙しました。 (7月15日 16時) (レス) @page50 id: cb1d4026ae (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます!起承転結の「転」は恐らく読者様の予想を超えるものになってしまったかもしれません。しかし、美桜さんのように嬉しいお言葉をいただけると、作者として本当に幸せです♡最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (7月10日 15時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年6月12日 13時

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