◆轟雷市・兄◆ ページ8
*高橋さんリクエスト*
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「じゃ、A、気をつけてね」
「うん、ありがとう、そっちもねー」
「バイバイ」と言って塾の友達と塾を終えて別れる。
今年高校受験が待ち構えている私は、「学費免除のトップをねらえ」とお父さんに言われて塾代だけ出してもらって頑張ってるところだ。
すっかり暗くなった空を見上げつつ、吐く息は白くふわふわと空に消えていく。
「寒……」
歩き出すと、塾の駐車場の植え込みのところにチョコンと座っている影が見えて近寄ると、うちのお兄ちゃんだった。
「お兄ちゃん?」
「A!」
呼びかけると、嬉しそうに立ち上がって私の近くに駆け寄ってくる。
いつから待っていたのか、鼻と耳が真っ赤。
「いつから待ってたの?」
「Aが遅くなるって親父に聞いたから。迎えに来た!」
「寒いのに…」
「俺のことはいいから。Aが一人で変える方がダメだし…」
いつから待ってたのかという問いには答えるつもりがないのか、お兄ちゃんは私を見て嬉しそうに笑うと「ベンキョーお疲れ」と頭をぽんぽんと撫でた。
「手ぇ冷た…」
「そうか?」
自分の手を見つめて首をかしげるお兄ちゃんに、自分の手袋をとってお兄ちゃんの両手につけて、マフラーを外してぐるぐるぐるっと巻く。
「……待ってくれてるのは嬉しいけど、風邪引いたら元も子もないよ」
「……あったけー!」
「あはは、帰ろ」
ぽんぽんと両手を叩いてキラキラした目で手袋を見ているお兄ちゃんと家への帰り道を歩き始める。
私よりお兄ちゃんの方が…とは言ってもやはり私も寒い。両手を合わせてさすりながら歩いていると、見かねたようにお兄ちゃんが手袋を片方外す。
「ん」と私の片手につけると、反対側の手をきゅっと握ってまた歩き始める。
「……今日、水炊きだって」
「……またかぁ」
「……肉食いてぇな」
「……お肉」
二人で手をつないだまま空を見上げると、二人同時にお腹がぎゅるるーっと鳴った。
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◇お家に帰ろう◇
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