◆成宮鳴・兄◆ ページ36
＊ももさんリクエスト＊
.
「おっも……」
バレンタインの今日、たんまりとチョコレートを袋に下げて帰宅する私。
言うまでもなく、このチョコの山は私宛ではなくて、
「あ、Aおかえり」
「……ただいま」
うちのお兄様のものだ。
私が重たい荷物を死にそうになりながら持って帰ってきたというのに、お兄ちゃんはソファにでかい顔して座ってお高いアイスを食べている。
「私の分のアイスは…」
「ないよっ……いったぁ！」
「鳴、ちゃんとAにも分けてあげなさいよー」
「……へいへい」
お姉ちゃんの鉄拳がお兄ちゃんの頭に下り、お姉ちゃんは私の頭を「おかえり」とぽんぽん撫でると部屋に戻ってしまった。
返事をしながらも、好物のラムレーズンハーゲンダッツをお兄ちゃんがわけてくれるはずもないことは私は知っている。
「……お兄ちゃん、これ」
「ん？」
「…バレンタイン。渡してくれって頼まれたやつ」
「おぉー！ありがと！」
「こんなチョコ食べたら胃もたれするってー」なんて言いながらも嬉しそうにそれをうけとるお兄ちゃんを頬杖ついて口尖らせて眺めていれば「いいでしょー」とドヤ顔をかましてくる。
「ちゃんと全部3倍返ししないとバチ当たるよ」
「ざんねん！見返りを求めない愛ってのもあるんだよねー」
「妹伝いな時点で本気じゃないから」とケラケラ笑うお兄ちゃん。こんなののどこがいいんですか。
「これで暫くおやつに困らないねー」
「そりゃよかったね」
私は役目を終えるとよいしょと立ち上がって自分の部屋に向かう。
お兄ちゃんはそんな私のリュックの紐をぐいっと掴むと「ん」と手を差し出した。
「え、なに？」
「チョコ」
「…もうないよ？」
「Aから、もらってない」
「…………」
ニコニコ笑って待っているお兄ちゃんに「…食べきれないでしょそんなもらって…」と苦い顔をすれば、うにっと両手で私のほっぺを引っ張った。
「Aのが一番美味いし？」
「…いひゃい」
「用意してんだろ？」
「…………」
図星。
お兄ちゃんの目の前にチョコレートをつきだせば「ありがと」と受け取った。
「なかったら煩いからしょうがなく…」
「愛されてんなー！俺！」
「聞いてんの！？」
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◆お兄ちゃんにはかなわない◆
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