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懐古。 ページ18




"懐かしい"

そうAさんが再び呟いた気がして俺は頭にハテナを浮かべる。


彼女は幼い頃の俺を知らない。



何故なら俺と彼女が出会ったのはつい数週間前だから。


なのに何故、こんな写真が


────猫と共に写った俺の幼少期の写真の何処が、



この麗しき少女をノスタルジックな気分にさせるのかが俺には分からなかった。



『うん。懐かしい。私はちゃんとここ(・・)で生きていたんだね』



その夜、彼女は月に照らされ泣いた。



でもその顔は笑っていた。


なんで泣くの!?
女心の分からない俺は戸惑うばかりだ。



俺の手が彼女の元へ伸びる。



"何かしないと消えてしまいそう"


さっきも思った感情が俺を支配する。




でも。


俺なんか(・・・・)がAさんを抱きしめて良いのか。



その涙を拭う権利が自分にあるのか分からずその手は届かぬまま引っ込んでしまう。



代わりに俺は妖精のような彼女に視線を合わせる。



『ばか、こっち見んな』

「煩い。こっち見ろ」


丁寧な口調は何処かへ消えた。

これは俺らが打ち解け合った何よりの証拠だと思う。



それでもお互いまださん付けなのは
それなりの厳粛な距離感を保っているから。



『なに、急に泣くなんて意味わかんないって怒るの?それとも泣き顔見てバカにしたいの?』


俺はふっと笑みを漏らす。
この子は忙しいな。笑ったり怒ったり。

いかにも生きているという感じでとても羨ましい。



俺みたいに人の顔色を伺い、本当の感情を
隠して生きている者としては素直な少女に恋焦がれるには十分すぎた。


猫のように気まぐれで。
猫のようにしなやかで。







雨が嫌いだった過去の弱っちぃ俺みたいな姑息な手は使わない。


君のように、猫のように自由な心で。

素直な気持ちで。




包み隠さず、俺も全力で愛を注ぐ。









「俺、Aさんが好きだ」









相変わらず窓の外の世界は永遠に終わることの無い雨を降らせているばかりだった。

溺愛。→←写真。



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作品ジャンル:恋愛
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眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢‪🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時

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