カーテンコールは拍手が鳴るまで終わらない【おそ松さん】 (ページ8)

今日:4 hit、昨日:2 hit、合計:2,304 hit

伍:観客席には何千人もの人々が待つページ8

一松said

我ながら、分かりやすい子供騙しをしたものだと思う。
Aの部屋に置いてきた紙切れは、全ての兄や弟の眼に映っていただろう。広間では早速その話から切り出された。
「で、一松兄さん。何渡したの？」
始めはトド松からだった。先程まで大きな瞳を更にクリッと輝かせていたくせに、広間に1歩脚を踏み入れた瞬間、此方を睨みつけて来た。
「…別に」
すました表情を作ろうと努力したものの、無意識に眼を逸らしてしまった。それを見逃す訳が無く、視線が此方に飛んできた。トド松とチョロ松からは疑いの目、カラ松と十四松からは心配な目が送られて来た。
「別に、ねぇ…」
トド松は目をジトッとさせて、1度引いた。そして交差するように、チョロ松が全体へと声をかける。
「…あの子、ここに居てはいけない」
その声に、視線は全員チョロ松へ向いた。彼が言う意味は、ただ単に彼がAを嫌っているという訳では無い。チョロ松の世間には知られていない本当の(・・・・・・・・・・・・・・)能力が、そう予想したと言っているのだ。
「彼女は追い出すべきだ。例えボスが彼女を呼んでいても」
そう言い切り、チョロ松は俺の目の前のソファに腰掛ける。それとほぼ同時に、カラ松は立ち上がって壁にもたれかかった。
「けれど…これは兄(・)の命令なんだ。逆らえないだろう？」
カラ松が出し始めた冷たい視線で、広間の空気は更に凍り、殺伐とした。確かに逆らうことは現実的では無い。
と、横に大人しく座っていた十四松が、いきなりピクッと跳ねた。左眼を見開き、先程までカラカラと揺れていた右眼が止まり、此方を向いた。
「…ネェ兄さん、Aの匂いがスル」
まるで台詞通りに暗唱する人形のように、口だけを動かして、小さく呟いた。その瞬間、カラ松が扉を開ける。
力強く開いたその扉の向こう側には既に誰も居らず、ただ廊下に微かに聴こえる足音だけが響いていた。
「…随分、気配を消すのが上手いな」
カラ松は悔しそうに表情を歪める。此方側からは見えないようにしているが、彼は今、何とも恐ろしく怒りを感じているのだろう。
ーーー嗚呼、つまらない台本(シナリオ)だな。
ふとそう考えて漏れた溜息に、俺は疑問を抱いた。この世界が台本ならいいのだがな、と思っていると耳元でカラカラと音が鳴る。
「また1つ幸せが逃げたネ」
横に居るパートナーは、そういって笑っていた。