『消えない文字（後編）』 ページ8
怪談話を行ったその夜。
Aはいつものように夕餉を済ませ、湯浴みをしたあと、床に就こうとした。
ふと、障子から隙間風が流れ込み、彼女の部屋にある鏡を覆っていた布が捲れる。
布を元に戻そうと鏡の前に立ったその時。
「ん？」
Aは鏡に白い文字が浮かび上がっていることに気がついた。
「……まさか、刑部様が昼間仰っていたのって」
いやいや、そんなまさか。と笑い飛ばしてみるが、無性にその文字が気になり、Aは声に出して読んでみることにした。
「これは……ろ？次はみ？」
反対に読めば『みろ』になる。
そのあとの言葉が『ろしう』と読めれば、刑部が話していた怪談の通りになってしまうが……文字が反転して中々読めない。
それに刑部が語っていたのは六文字だった。
今Aの目の前にある文字は、五文字。
大丈夫だと自分に言い聞かせ、文字の続きを読んだ。
「ろ、み、を、え、う？」
反対から読んでみる。
「う、え、を、み、ろ……？」
声に出して、Aは反射的に天井を見上げた。
「！」
Aが目にしたもの。
それは彼女にとって背筋も凍るようなものだった。
Aは急いで部屋を出て、刑部の元へ向かう。
「む？如何した？」
「刑部様……
ずっと寝癖が付いていたなんてなんで教えてくれなかったんですか！」
Aは顔を真っ赤にしたまま、天井に『怪奇話の時から寝癖がついていたぞ(笑)』と書いた貼り紙を取り付けた主犯に当たり散らす。
「心外よなァ。三成やもしれぬであろう？」
「三成様は既にお休みになられています！」
「では左近であろう？」
「左近様は厠に一人で行けないほど怖がっておられたので無理です！」
「ヒヒッ、それで我と来たか。やれバレたバレた」
「バレたバレたじゃないですよ！というかなんで三成様たちも教えてくれなかったんですか！」
Aの羞恥の叫びが響く。
佐和山城怪綺談、本当に怖いのは何も知らないことなのかも知れません。
【完】
【没ネタ】最終回にできなかった最終回→←『消えない文字（前編）』
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作者名：三楓 | 作成日時：2018年6月24日 20時
