『葛篭の中身（前編）』 ページ3
「これは、怪談好きな女中さんに聞いたお話です。
あるお屋敷に新しい使用人として一人の男が訪れた時のこと。男は荷物を置くために部屋に案内され、その部屋の壁に付着していた染みに違和感を持ちました。
『この染みはなんですか？』
と部屋まで案内してくれたお屋敷の者に尋ねると、
『これは以前この部屋を使用していた者の血です』
とお屋敷の者は答えました。
誰かの血がついた部屋でこれから寝泊まりをするなんて、と男はぞっとしましたが以前の暮らしと比べれば贅沢なものだと自分に言い聞かせ、あまり考えないようにしていたのです。
そんなある日、男が布団を片付けていると押し入れの天井裏から大きな葛籠を見つけました。
前の部屋の持ち主が使っていたものだろうかとその葛籠を取り出し、好奇心で中を覗こうとした瞬間、偶然通りかかったお屋敷の者が
『それに触るな！』
と大声で怒鳴ったのです。
慌てて葛籠を片付けその場は頭を下げて済ませたのですが、もしかしてこの中に見られてはまずいものが入っているのではないかと男は疑いました。
その日の夜、使用人としての仕事を終えた男が再び葛籠を取り出して中を覗くと、そこには女物の着物が一枚だけ入っていたのです。
『……着物だけじゃないか。俺はてっきりこの葛篭の中に男の死体が入ってるのかと思っちまったよ』
そう言って男はほっと、胸を撫で下ろしました。おしまい」
「え？お、終わり？」
「終わりです」
「なんつーか、最初は怖かったけど最終的に死体はなかったってことだよな？」
聞く前はガチガチに固まっていた左近も、力が抜けたのか前のめりになって深く溜息を吐いた。
対して三成はどこか納得がいかない顔をしている。
「A、新しい使用人の男は何故葛篭の中に男の死体が入っていると思った？その部屋を以前使っていた者が男だとは一言も言っていないだろう」
「お、流石は三成様。そこに気が付きましたか」
「え、えっ！？何が？怖いんッスけど！？」
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作者名：三楓 | 作成日時：2018年6月24日 20時
