あの頃はそれがこの世界の全てで【高尾和成】

Good Old Days 028 ページ41

　笠松さんの次の審判は、森山さんである。事前に予想はしてたけど……この人本当にこんな口説いてくるんだ。


「オレと付き合おうよ。オレとAちゃんが出会ったのは運命だよ！」


「はい、そして私が森山さんを振るのも運命ですよねっ」


「いや恋に運命とか関係ないし。むしろ、運命に逆らう恋のがロマンチックだと思わないか？」


　さっきと言い分が全然違う。森山さんは面白い。顔だってめちゃめちゃイケメンなんだから、モテると思うんだけどなぁ。


「おやおや、仲が良いねえ。カレカノ、ってヤツかい？」


　車椅子に乗ったお婆さんが、微笑ましい、といった感じで聞いてきた。でもごめんね、カレカノがジワジワ来る。


「いや全然！」
「ハイその通りです！」


　私と森山さんは同時に答え始めたが、それぞれ真逆の解答を導き出していた。そう、回答ではなく解答。


「「「えっ？？？」」」


　いや、お婆さんと私が戸惑うのは至極普通のことだよ。だけど、森山さんは何で付き合ってるとかいう嘘をついた挙げ句「え、Aちゃん何言ってんの」みたいな顔して口におてて当てて目を丸くさせてんですか。


「も、森山さんお言葉ですが私達付き合ってるわけじゃありませんよね」


　できるだけ当たり障りない言葉を選ぼうと最善は尽くした。でもやっぱ角が立つ言い方しか出来なかった。


「いやいや、男女が2人でベンチに座ってお喋りしてるんだぞ、これはもう恋人同士と言っても」


「過言ですね」


　勢いよくツッコんでから、まずいこの人一応年上だったと思い出し、ゴホン、と咳払いをして誤魔化した。ていうか、森山さんの理論で行くと私、今日この場にいるほとんどの男子とカレカノだ。


「やっはっはぁ、お嬢ちゃん達仲が良いねえ、アタシもアオハルを思い出すわ」


　お婆さん――サツキさんというらしい――は、独り言か話しかけてくれているのか認識出来ないギリギリのラインを攻めてくる声量で言った。


　それには、何かを懐かしむような声色が滲んでいた。でもごめんやっぱりアオハルでジワる。


「はい、森山さん今日初めて会ったことを忘れてたくらい話しやすかったです」


　取り敢えず、私達に喋ってたかもしれないから返しておく。だが、お二方から「アンタに喋ってんじゃないよ」「やっぱAちゃんオレのこと好きなんじゃん結婚しよ？」と言われてしまったのでこの判断は誤りだったらしかった。


　

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