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声がした方へ顔を向けると満面の笑みを浮かべてヒラヒラと私に手を振るのは『UNDEAD』の二枚看板の片割れである羽風薫先輩だ。
羽風先輩は私が気付いた事を確認すると振っていた手で今度は手招きする仕草を見せる。
いつも羽風先輩をレッスンへ誘導する身としては彼が自ら進んで来るのは珍しい。(勿論、お茶の誘いは別としてだが)
私は羽風先輩の元へ駆け寄り『どうしました?』と用件を訊ねてみる。
羽風先輩は何故か一度辺りをキョロキョロと見渡してから、私にそっと耳打ちした。


「ねぇ、Aちゃんこの後時間ある?」

「有ると言えば有りますけど、無いですね」

「それどっちなの?
まぁ、いいや。
Aちゃん少しだけ俺に付き合ってくれないかな?
大丈夫、直ぐに帰すから」


ね?と手を合わせて可愛くおねだりする様なポーズを取り、僅かに瞳を輝かせる羽風先輩に思わずグッと言葉が詰まる。
UNDEADの二枚看板だけに朔間先輩と並ぶその綺麗な容姿で幼い子供を思わせる仕草をされると断りにくい。
それに少しの時間だけなら……と安易に快諾してしまいそうな気持ちになる。


「でも、私これから企画書の推敲が……」

「ああ、それなら大丈夫だよ。
落ち着いて座れる空間だからさ」


一体、この人は私を何処へ連れて行くつもりなんだ。

少しだけ身の危険を感じ、スッと後ろに下がると羽風先輩はそれに気付いて『心配しなくても何もしないよー』と緩く笑った。


「まぁ、本当は俺もAちゃんと二人っきりがいいんだけど。
朔間さんに頼まれちゃったからさ」

「え?朔間先輩が…ですか?」


これもまた意外な人物が意外な人物へ頼み事をしたものだと思うのは失礼だろうか。
基本、朔間先輩が頼み事をするのは隣のクラスの乙狩アドニスか私かあんずが多い。
とは言っても、日中は寝惚けている事が多い為、夕方会った頃には頼み事をした事すら覚えていなかったりする。


「そうー。意外でしょ?
晃牙君はアドニス君に『捕まえられて』先に行っちゃったから、俺達も行こうよ」

「わ、解りました……」


晃牙に関して物騒なワードが出てきた気もするが、朔間先輩が風船のように軽くて、手を離すと捕まえ難い羽風先輩に頼み事をするなんてよっぽどの事が起きているのかも知れない。
私は少し駆け足で席へ戻ると企画書がスクール鞄の中に入っている事を確認し、羽風先輩との会話を見守っていた嵐ちゃんに『また明日!』と告げてから教室を出た。


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作者名:ナナシ | 作成日時:2018年4月7日 12時

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