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振り返ると、学者風の青年が階段を降りてくる所だった。
「Aさんは太宰君に甘いんです。
太宰君の台詞の三つに二つくらいは金槌で後頭部を叩いて突っ込むくらいでないと、収拾がつかなくなりますよ。
ご覧なさい、バー全体がツッコミ不在の亜空間と化している。
マスターなんて細かく震えています」
彼の名前は坂口安吾。
丸眼鏡に背広という学者然とした出で立ちだが、これでも我々と同業。
マフィアの専属情報員だ。
「やあ安吾!
暫く見なかったけど、元気そうじゃあないか」
太宰が笑顔で手を掲げる。
「元気なものですか。
東京出張からたった今帰ってきたばかりなんです。
日帰りのね。
古新聞みたいに"くたくた"です」
安吾は首を回しながら、太宰の隣のバー・スツールに腰掛けた。
肩から提げていた唐紅色の図囊を机の上に置いた。
「マスター、いつものを」
安吾が太宰の隣に腰掛けるのとほぼ同時に、マスターが黄金色の液体を安吾の前に置いた。
安吾の足音が店の入口で聞こえた時から既に作りはじめていたのだ。
グラスの中をのぼる泡が、背の低い照明を反射して静かに光っていた。
「いいなァ出張。
私も遊びに行きたい。
勿論Aと。
あ、マスター蟹缶おかわり」
太宰は空になった缶を振りながら云った。
太宰の前には既に空になった缶が三つほど積まれていた。
「遊び?
マフィア全員が貴方のように暇潰しで生きている訳ではないのですよ太宰君。
勿論仕事です」
「私に云わせればね安吾」
太宰は新しく来た蟹缶の身をつまみながら云った。
「この世に存在する凡てのものは死ぬまでの間の暇潰し道具だよ。
それで、仕事って何の?」
安吾は少し空中に視線を迷わせてから答えた。
「魚釣りです」
「へえ、それはご苦労様。
釣果は?」
「ゼロ。
まるで無駄足でした。
欧州の一級品と聞いて足を運んだのですが、どれも町内会の手芸教室もかくやの我楽多ばかり」
『魚釣り』とは、組織の中で使われる隠語で、密輸商品の買い付けの事だ。
大抵の場合は海外で造られた武器や横流し品をかう。
希に宝石や美術品が流通に乗ってくる事もある。
「ただ、悪くない骨董時計が一つありました。
中世後期の時計職人の作品です。
贋作でしょうが、この出来なら買い手はある」
安吾は鞄から髪包みに覆われた筺をわずかに見せた。
その上に、煙草や携帯雨傘などの出張道具が載っていた。
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ラッキーアイテム
包帯
ラッキーキャラ
織田作之助
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ミュウ=ムー(プロフ) - 教えてくださり、ありがとうございます。 (2018年9月20日 19時) (レス) id: 1429768fb6 (このIDを非表示/違反報告)
kana(プロフ) - オリジナルフラグははずさないといけませんよ。違反行為なので (2018年9月20日 19時) (レス) id: 8d50bc542b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:皇帝ペンギンM← | 作成日時:2018年9月19日 21時