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それから、色彩がはっきりとしはじめた日常の中に、あのひとではない別のものが紛れるようになった。なにもかもをねじ伏せる強さなんて短期間では身につくものではないけれど、手繰り寄せられる範囲のものであればある程度磨くことが出来るかも知れないと思った。
なにせ、私にはほかに出来ることなんてないのだから。
心の底からそれが好きだ、と口にするのはやっぱり憚られるけれど。
億が一、初めて大切にしたいと思った彼に、恥ずかしくないような人間に生まれ変われるとしたら、そう考えると前よりも進む足取りは軽い気がした。
だけど、天性の容量の悪さはいくら頑張ってもどうにもならない。そうと決めたら一直線にしか進めない、それだから私は、心のよりどころにしていた放課後をおざなりにしてしまっていた。
「ひさしぶりじゃん」
一週間ぶりに顔を合わせた彼は、相変わらず何を考えているのかわからなかった。
それは、私の方も同じだった。なにかが、おかしかった。自分がどんなことを考えているのか、一言では説明が出来なかった。
「ご、ごめんなさい。急に来なくなってしまって」
「ん?別に」
「……怒ってませんか?」
「なんで?」
どこか変になってしまったみたいだった。
例えば不機嫌そうだったり、あからさまに不貞腐れていたり。そんな顔を向けられていたら、きっと恐ろしいはずなのに、もしかしたらちょっとだけ嬉しいかもしれない、なんて。何事もなかったかのような平和な話し口調に、ちょっとだけがっかりした、なんて。
「……なんでもないです」
「そっか」
自分の中のなにかがしゅん、と熱を徐々に失っていくのを感じながら、彼が座っている席の、テーブルを挟んで向こう側の椅子に腰を掛ける。けれど、彼の手元にある本が、見覚えのあるものであることに気付いた途端、またろうそくに火が灯った時のような暖かさに身を包まれるのだ。
「……読んでくれてたんだ」
「ん?うん」
「面白いですか?」
「わかんね」
「わ、わからない……?」
「けど、素通りしたくはない」
きらきら、水面の光のようにはじける金色が眩しい。綺麗。眩しいのに、目を離したくない。一週間開いたことで余計感じるようになったそれは、はっきりとしない私の心情のくもりを少しだけ晴らしたようだった。
寂しかった。佐野くんに、すごく会いたかった。
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まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます!丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします! (2022年4月7日 11時) (レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました!是非、更新頑張られてください!! (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みな | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/nymn624
作成日時:2022年4月1日 21時