お隣、28日目 ページ28
▽
9月。
暑苦しい8月を乗り越えたが、まだまだ残暑の続く夏の終わり、俺はいつも通り大好きなバレーボールに打ち込んでいた。
その日の俺は、いつもより早めに切り上げられた練習に満足せず、一人残って練習を続けていた。結局練習を終えた頃にはあたりはもう暗くなっていて、俺は急ぎ足で家に向かう。
(…、今日の夕飯はなんやろか)
双子のサムほどではないが、俺も食べ盛りの中学生だったから、夕飯は何かななんて少し楽しみにしながら、上機嫌で歩いていたと思う。
……その途中、通りかかった公園…円形の、中が空洞になったような遊具の中から、何かすすり泣くような声が聞こえてきたのだ。
俺は背筋が凍り付くのを感じた。
お化けや。いやお化けなんておるわけない。…いやでも、これはどう考えても。
頭の中でいろんな仮説がぐるぐる回る。早く帰ればいいものを、俺は何故かその場から動けなかった。
「……と、……ん」
(……女?)
そんな中、飛び込んできたのは俺と同い年くらいか、それより幼そうな女の声。少しだけ緊張が解けたが、それでもやはり怖いものは怖かった。
だけどその時の俺は、好奇心が勝ってしまったようで、気づいたらその遊具に向かってゆっくりと歩き出していた。
段々とハッキリ聞こえてくる声に、俺の恐怖心は消えていく。これはどう考えても幽霊とかそういう類のものじゃない。生きた人間の、普通の女の、声だ。
「おと、…さん、」
「……おい」
「っひ、!だ、誰?」
すぐ近くまで来た俺は、遊具の中を覗き込むことはせず、声をかけた。女は俺のことを不審に思ったようで、少し怯えたような声を出した。
普通に考えて夜にこんな公園の遊具の中ですすり泣いてる方が不気味なはずで、俺が不審者扱いされるのは腑に落ちないが、まあそれはいい。
「普通の中学生や」
「わ、私も…普通の中学生!」
「普通の中学生は夜に公園ですすり泣いたりせんぞ」
「……じゃあ、ちょっと落ち込んでる普通の中学生」
俺のツッコミ、そう言い直した女。
それがなんか少し可笑しくて、俺は思わずふっと笑った。すると女もそれに気づいたのか「笑ったでしょ」と茶化すように言ってきた。
「なんで泣いとったんや」
「おおおお男の子にフラれたの!」
「『お』が多いで」
動揺しているのがまるわかりだ。
どうやら俺に事情を話す気はないらしい。
…だけど残念やったな。
俺は宮侑や。
聞き出すまで帰らへんぞ。
.
174人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
冬田(プロフ) - 結衣さん» こちらこそ温かいコメントありがとうございます(^-^)本当に嬉しい限りです!そちらの曲も聞いてみたいと思います! (2020年5月27日 13時) (レス) id: 4ea05f3e1b (このIDを非表示/違反報告)
結衣 - 本当に素敵なお話しをありがとうございます!!OneRepublicのCounting Starsという曲のようで感動しました!聞いてみてほしいです! (2020年5月26日 12時) (レス) id: f0b62f3d9b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:冬田 | 作成日時:2020年5月15日 20時