『こころ』 4 ページ13
保健室に来たのは二回目だ。
普段から体が弱いわけでもないのに、入学してから三カ月ちょっとで二回目。
それも、最初に来たときから約一週間しか経っていない。
「笹草さん、大丈夫?」
「はい」
保険の先生が心配そうに聞いてくる。
体育で、思いっきり転んだ。
マラソンで外周を走っている途中で、少しの段差があるところで転んで、コンクリートだったから派手にすりむいた。
血がにじんで、ジンジン痛む。傷口に入った小さい石ころ達が、存在を誇張していて、気持ち悪い。
急いで消毒してくれる保険の先生は優しい。けど消毒液を容赦なく押し当てる先生の手当ては優しくない。
ほんと、私馬鹿だなあ。
今日はもう、体育に参加できないから、保健室で休んでいればいいって言われたのは嬉しい。でも、体育で今日の授業は終わりなんだから、このまま帰してくれたらいいのにな、と思ってしまう。
手当てもしてもらって、暇になったから、まだ痛む膝の痛みを忘れようと、読みかけていた本を読む。本当は最初から一気に読みたいけれど、『こころ』は短編ではないし、期末テストも近いから無理だ。
パラ、パラ、とページをめくる音が響く。もう耳に馴染んだ、この、素朴で静かな音。
一番好き。
あ、でも。黒子先生の柔らかい声も、好きだな。真っすぐで、好き。
この本の『先生』は、人間不信で捻くれてる。夏目漱石もこんな感じだったのかなあ。
『しかし、君、恋は罪悪ですよ』
すっと浮かんで、直ぐに消えた『先生』のセリフ。
なぜだろう。
『先生』に言われたのに、先生に言われた気がした。
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作者名:みい x他1人 | 作成日時:2017年5月25日 20時