薄桜鬼〜明眸の千里眼〜

獣 ページ14

満月が浮かぶ真っ黒に塗られた空。
月は辺りにある雲を濃淡に染め、幻想的に夜空を彩っている。
宿所の二階でその夜空を見上げながらAは吐息を吐く。

貴女「収穫なし・・」

凛々しい声音はどこか困惑しているようで、事を深刻化させている印象を受けた。

貴女「京には仕事が無いみたいだし、今度は大阪にでも行くかな。」

皿に乗っている団子を掴み、そっと口に運んで静寂に包まれた京の夜空を見つめる。

本来、彼は傭兵で雇われなけえば仕事がない。
仕事を探して治安の悪い京に訪れたのだが、思っていたけど治安は悪くなかった。

無心に団子を頬張っていた頃、近くから気味の悪い奇声が聞こえてきた。

？？「ひ・・、ヒヒヒヒヒ・・！！」

貴女「？」

夜空を見上げていた視線を地上に戻し、声の方向を凝視する。

貴女「人・・？」

“それ”は人の姿をしていた。
だが、声や姿勢は人ではなく獣と言った方が妥当だ。

浪士「た、助けてく・・ギャア！！」

？？「ひひひ・・、ヒャッハハハハハ！！！」

まだ人と言えるであろう浪士を切り捨て、“それ”は浪士に近づく。
金銭でも抜き取っているのだろうかと思ったAは身を乗り出して様子を伺う。

貴女「！？」

だが、全く違った。
金銭を盗んでいるどころか、血を啜っている。

貴女「気味が悪い・・」

Aは食べ終わった団子の串を構えると、手裏剣の様にして相手に投げつけた。
カッ、と小さな音を立てて串は相手の手の甲に突き刺さる。
反射的に相手はAを見上げ、その狂った目を向けてきた。

貴女「人じゃない・・」

その爛々とした赤い目に人の気配など微塵も無い。
そして、相手はAを見るとニヤッ、と血がこびりついた口元を吊り上げるのだった。

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