暑 a ページ8
｢夏……ですね……｣
｢夏……だなあ……｣
外で泣き叫ぶ蝉の音が、煩くて仕方ない。
遮光カーテンの隙間から覗く光が、眩しいことこの上ない。
キャッキャとはしゃぐちびっ子の声が外から聞こえ続けているのが、煩わしい。
大の大人2人が、こんなクソ暑い部屋で死人のような顔を見合わせているのには理由があるわけで。
うん。つまりあれだ。愛しい彼女を家に泊めて、朝起きたらクーラーが壊れてた。うん。
｢さすがに…うん…ﾁｮｯﾄﾈ…うん…これはさすがに帰るわ…うん…ごめんね、せっかく久々に会ったのに…｣
｢いやおい。待てよコラ。彼氏様をこんなクソ暑い部屋に残して帰るとはどんなご身分だテメー｣
玄関に向かおうとする彼女のTシャツの襟元を掴めばすでにびちゃびちゃで、この部屋の気温と蒸し暑さを感じさせる。
｢この暑さでこの部屋に2人はキツイって…熱中症になるって……｣
｢だったらお前ん家に行けばいいじゃん｣
そうだそうだ。そうすりゃいいじゃん。
なにもクーラーが壊れた俺の家じゃなくても、2人きりで過ごすことはできる。
｢えー？！部屋に下着干しっぱなしだし、来る事になるなんて思ってないから部屋の掃除もしてないって！いくらなんでもそれは嫌だよ！｣
ちょうどいいじゃん。どんな下着着てるのか見せてみろよって言ったら、ギャー！変態！！！って叫ばれた。
嘘だろ？仮にも彼氏だぞ？
｢とにかく、俺は愛知でライブの次は神戸でライブがあるし、明日の昼にはこっちに居ないし、なんならライブが終わればゲーム実況撮らなきゃだし、またしばらく会えないんだぞ？｣
それでもいいのか？俺はよくないと思ってるけど、お前がそれでもいいって言うんなら諦めるけど、それでもいいのか？
｢……その聞き方、ずるくない？｣
うるせえ。こっちだって久々に会ったのに、はいそうですかーでバイバイできねえんだよ。
｢片付けるんなら部屋の前で待っててやるし、それでもA、お前は1人で家に帰んのかよ｣
｢……本当に？絶対？家の前で待っててくれる？｣
なんで疑ってんだよ。まあ片付けなんて待たずに入るつもりだったけれども。
｢待っててやるから、なるべく早く片付けろよ？｣
うん、頑張る！なんて微笑むところが素直でめちゃくちゃ可愛らしい。
(お邪魔しまーす)
(ええ？！？！なんで？！待っててくれるって言ったじゃん！！)
(赤じゃん。俺カラーだ)
(ギャーーー！！！変態！！！)
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