写真 e ページ4
夢の国を背に、ネズミのカップルのカチューシャをお揃いで付けて、同じ制服で、手を繋いでカメラに向かって満面の笑みを浮かべている、少し幼い男女の写真。
少女の方は俺の愛する人物で、少年の方は、俺の全く知らない奴。
これは、見つけてしまった俺が悪いのか、それとも、未だにこんなものを持っているAが悪いのか。
そんなものに結論はつかなくて、心の隅から、じわじわと黒い靄が広がるのを感じる。
幾つか歳下の彼女に元カレという存在がいたことは、明確に言われてはいないとしても理解していたはずだった。
しかし写真の中の彼女は制服で、今の俺では知る事のできない、今よりも少しだけ幼い笑顔に、当時の授業風景や高校生活を想像してしまう。
俺の知らない君がいるのだと痛感させられて、胸が苦しくなる。
そして、俺の知らない君を、横にいる男は知っているのだという事実に、腹が立つ。
今のAが愛しているのは紛れもない俺で、過去なんて気にするものじゃないと思う反面、過去に俺の知らない奴を愛し、俺が見ることのできない笑顔をソイツは見ていたのかと思うだけで、吐き気がする。
なんでそんなに笑顔なんだよ。一緒に行って写真撮って、さぞ楽しかったことだろう。
心の隅で広がった黒い靄は、身体の中から飛び出して、部屋の中全体に広がってしまったのかのように感じる。
いい歳して、歳下の彼女の元カレとの写真だけでこんな気持ちになるなんて、むしろ笑えてしまう。
乾いた笑い声と同時に頬に伝う涙は、重力に従ってカーペットにシミを作った。
何度祈ったって過去を変えられないことぐらいは理解しているのに、頭の片隅で、そっと祈らざるを得なかった。
どうか、彼女の元カレという存在が全て消えて、彼女の全てにおいて、俺が1番最初の人になりますように。
どうか、引き出しを開けてこの写真を見つける前に戻りますように、と。
それでも時が戻ることはなくて、俺の知らない奴を愛しソイツのためだけに微笑むAが頭に浮かんで、ただただ涙が溢れた。
上手く力が入らなくてしゃがみこんでしまっても、涙は止まらなかった。三十路を超えたにも関わらず、嗚咽をあげながら1人で泣くことしかできなくて、それが無性に、悔しかった。
もしAと付き合いもせず、他人のままだったのならば、辛い気持ちにならなかったかもしれない。
それでも今の俺にはAから遠ざかるという選択肢は選べなくて、それが尚更、涙を溢れさせた。
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