寒い夜は a ページ3
｢布団を、暖めておいてみました｣
｢は？｣
｢寒い日が続くしね、たまにはね｣
｢ああ、うん。そうですか｣
｢どう？素晴らしい彼女だと思わない？神に匹敵するよ！この素晴らしさ！｣
｢いやまあ、意味わかんないけど｣
風呂から上がって廊下に出れば、リビングの電気もキッチンの電気も消し終えられた俺の自宅。
早々とベットに入っているA曰く、寒い日が続いてるし風邪をひくのはアレなので暖かい布団で早めに寝て健康に過ごしてみよう、とのことだ。
いや、いい考えだとは思うけども。むしろ素晴らしい考えだとは思うけども。
｢そうか、ならおやすみ。俺はドラ〇もんを観る｣
｢え？！なんで？！｣
｢まだ21時過ぎだぞ。小学生かよ｣
｢ドラえ〇んも小学生だよ！！！｣
この野郎。ドラ〇もんは少年の夢と希望とその他諸々も詰まった作品だぞ、馬鹿にしてるのかこの野郎。
まあ本音を言えば、深夜のカップラーメンの背徳感を楽しみたいってだけだけれど。
｢あろまあ、1回だけ！1回だけ入ってみてよ！サッと入ってサッと出ていいから！｣
｢1回入ったら2度と出てこれないだろうが｣
｢そんなのわかんないじゃん！案外いけるかもよ！｣
いけるわけねーだろ。布団に入ったその後はもう、トイレ以外は布団から出ることは許されないんだよ。
｢なんでダメなの！1回だけだよ！それだけだよ！お願いお願い！お願いします1回だけ！ちょっとだけええええ！！！｣
｢てめえうるせえな！わかったわかった！わかったから叫ぶな！｣
夜なのにすげえ声量で叫びやがる。くそ、負けた。しかもなんだそのドヤ顔、ムカつく。
仕方がないと布団に入れば、シーツや毛布の冷えた感触はほとんどなく、ポカポカと暖かい。
なるほど、暖かいけれど足先の方だけはまだ少し冷たく、丁度いいバランスの暖かさだ。
これはもう、出られねえな。さようなら、俺のドラえもんと深夜のカップラーメン。
｢まあまあまあ、ここで終わらないのがAさんですよ！ワガママあろまには、これを進ぜよう！｣
じゃーん！と効果音が付きそうなほどのどや顔のAの手には、冷えたコーラが2本。しかもiPad付き。なんならドラ〇もんの映画を観る用意もされている。エスパーかよ。
たまには布団で寝転がって映画観て、寝落ちしちゃうのもアリじゃない？と微笑むAはなんだか完璧すぎて、生返事を返すしかない。
Aってこんなあざとい奴だったっけ？まあなんでもいいか。愛おしい。結婚しよ。
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