【あんスタ】夜行少女【逆先夏目】 (ページ5)

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1章　魔法使い( 3 ) ページ5

彼に言われた事がいまいち飲み込めなくて思わずぱちぱち、瞳を瞬きさせて彼を見つめてしまった。

魔法を、掛ける？私に？

そもそも初対面でこんな事を言われて信じられると思うのだろうか。

少々困惑を交えた視線を彼に送りつつ、彼に言葉を返す事にした。

「…………、……魔法、なんて本当にあるの？」

「あるヨ。君は魔法を信じていない様だったからネ。だからボクが試しに魔法を掛けてあげようかって言ってるじゃないカ。」

独特の発音で話す彼の言葉を聞いてはもう一度思考を巡らせる。

魔法、不思議な力。そんなものがあるのだとしたら、その不思議な力で私の体も治して欲しいものだが。

けれどやっぱり彼の言う事が信じられない。

そもそも名前だって出会ったばかりで聞いていないのに、分からないことが多過ぎる。

どうして私に声を掛けてきたのかだとか、彼は誰なのかだとか。どうしてこんな時間にこんな所に居るのだろうとか。

……取り敢えず名乗る所から始めなければならないだろう。

誰かと出会ったら言葉を交わしてお互いを知りなさいってお父さんが言ってたし。

一先ず自己紹介だけでもしようと私は言葉を紡ぐ。

「…その、魔法が本当にあるかどうかは分からないけれど、まず貴方の名前を教えてほしいな。私の名前は十六夜 A。」

「…………十六夜、…ふぅン、Aちゃんって言うんダ。ボクの名前は逆先夏目。よろしくネ、子猫ちゃん。」

十六夜、という苗字に何か引っ掛かりを憶えたのか一瞬彼の瞳が開かれた気がするもすぐに元の表情に戻る。

確かに十六夜という苗字は珍しい気もするからそれで驚いたのかもしれない。

…きちんと名乗ったのに、どうして子猫ちゃんなのか。そもそも子猫ちゃんってなんだろう。私は子猫ではないんだけれど。

「………ねえ、私は子猫ちゃんじゃないよ？ちゃんと人だもん。」

「アハハ、分かってるヨ。けどボクから見た君は子猫ちゃんだからそう呼ぶだケ。気にしないデ？……迷子ノ、ネ、」

「………？…ええと、夏目くん、ね。…よろ、しく？」

最後の言葉は街の雑音に消されて聞こえなかったが、一先ず手を差し出してみる。

こうやって同年代位の人と喋る機会があまり無いから距離感がいまいちわからない。

普通の人はこんな時どうするのだろう、なんて考えていれば彼が差し出した手を握り返してくれる感触がしたので笑みを返しておいた。