React of the Queen. IV【あんスタ】

22 - 1 暮れなずむ記憶 ページ23

.





「A」




振り返ると、彼はひらりと手を振った。

鞄だけを手に、そこに立っている。





「泉

珍しいね、今帰り？」



「そう

途中まで帰ろ」





2人肩を並べて歩き始めるや否や、静かな空気を誤魔化すように他愛ない話を始める。


2人して、それに静かに笑いながら。





「ゆうくんは？」


「ゆうくんはもう帰ってた」


「へえ」





ぽつりぽつりと、世間話やら、idol業界の仕事話やら、何気ない時間を過ごしていく。





決闘だとか内戦だとか、争いの中に身をおく


私達はそういうidolで、Knightだ。





「ねえ、A」





でも、それでいて私達は、″普通″の高校生で、子供なのだ。





「ごめん、何も気付かなくて」



「…何が？」





静かに笑い返すAに、泉は真面目な顔のまま前を向いて続けた。





「…俺、あんたのこと嫌いじゃないよ


むしろ、すき
…おまえらがいるKnightsが、いちばん」




「…え？」





視線だけずらして、頭上の空のような、美しい海のような。

そんな透き通った水色の瞳が、Aをとらえる。





噛み合わない会話に、Aは終始腑に落ちない顔で。





「俺はこの通りひねくれものだし、結構人の気持ちに鈍いみたいだし
今思えば、こんな俺が″あの″あんたの傍にいられてたってのも不思議なくらいだけど


…まあ、それでもいい」






急に立ち止まって横からいなくなるものだから、Aも同じく立ち止まって振り返る。







「…いずみ？」




「…こんな俺でも


……ううん、こんな俺だから」






表情を一切変えずにまた歩き出した泉が、振り返っていたAの口を自らの手で覆った。


突然の出来事に、Aはきょとんと止まったままだった。






「好きじゃなくてもいいから

せめて、忘れないでいて」






人通りの無い、もう既に日が暮れかかった帰り道で



口元の手は退かぬまま、近付いた顔に反射で目を閉じたAは不思議と何も感じなかった。

ただ、そのあとに恐る恐る目を開けたら、泉が小さく笑っていた。







「…なんて、忘れるのは俺の方だけど」






腑抜けた顔のAに、泉は何してるの、とその横を通りすぎていく。




先程僅かに近くで感じた息遣いに、Aは首をかしげて。


静かな泉の背を、Aは歩いて追った。








囚われた記憶の中で、私達はそれでも、新たな記憶を紡いでいる。


それが残るか消えるか、わからなくとも。








.

22 - 2 ひととせ ちとせ→←Story 22『 Irreversible apocalypse 』

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す