秒針が出逢う時 ページ43
.
──…これできっと、忘れないよ
栞を握りしめた。
何が忘れないよ、だ
一番忘れてたのは、俺。
結果、今こうして走ってる。
夜だったから、俺は元気。
だけど運動は好きじゃない。
ああ、嫌だ。
あの子のことを忘れてた自分も
約束を、破りそうになっていたことも。
この向かい風で、嫌な気持ちが全部飛んでいってくれたらいいのに。
全部全部、俺の大好きな記憶だけ、残ってくれたら。
不意に急ブレーキで止まった。
上がった息を整えながら、顔を上げた。
『千歳』という表札がかかった、一軒家。
その玄関に、ナッちゃんはいた。
「…あんただったのね
こんな栞を残して、アタシ達の記憶の欠片をこの世界に託してくれたの」
「……でもいっちばん忘れてたのは、俺だった
…Aが、どう思ってたのかも知らずに」
「自責は後にしなさいな
待ってるわよォ、可愛い可愛いアタシ達のA」
目線をそらしたまま、ナッちゃんはそう言う。
そのナッちゃんの背後から、また今度はスーちゃんが出てくる。
「凛月先輩！
お待ちしていました、…ああ、いえ、何よりお姉さまが
元気にしておられましたよ、お姉さま」
頬を染めて、初々しく笑ったスーちゃん。
「…何で皆いるのぉ
セッちゃんと月ぴ〜は？」
「中にいるわ
見ればわかるわよ
…ああ、それと
Aのお母様とお父様にご挨拶、忘れずにね
アタシ達を歓迎して下さってるから」
ナッちゃんに促されるまま家に入ると、
優しそうな顔の大人の人が2人いて。
「凛月、くんね」
笑って、頭を下げると
女の人も微笑み、軽く会釈した。
その笑みは、俺が知るAと良く似ていた。
「…、セッちゃん、月ぴ〜…」
「遅かったなあ、リッツ」
ベッドの上で寝ている少女に、
その少女の手を握ったまま寝ているのはセッちゃん。
「…ようやく、思い出した」
「良かった
ナルに感謝だなあ
…リッツはAがお気に入りだったから」
「…月ぴ〜でしょ、ナッちゃんに指示出したの」
そう言った俺に、月ぴ〜はふと笑って首を振った。
「知らないよ
おれ、そんなに気ぃ遣えないもん」
その声に、ベッドの2人はぴくりと動いて
顔をあげるなり、起き上がるなり。
「…、くまくん…？」
「……凛月、？」
今、漸く
これまでの涙の意味が、わかったような気がした。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 240人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まひる(プロフ) - 朔さん» 長かったのに最後までありがとうございました(/´△`＼)そう言っていただけると本当に嬉しいです！新作も是非読んでいただければと思います(*’ｰ’*)ﾉありがとうございました(人*´∀｀) (2019年8月1日 21時) (
レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
朔(プロフ) - 最終章までお疲れさまでした。最初から最後まで楽しく読ませてもらいました。内容もしっかりしてて読んでて凄く楽しかったです！新作、楽しみに待っています！ (2019年8月1日 19時) (レス) id: ba31d19644 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
